2012/05/25
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>ステップバイステップ日本語教師養成講座(3)検定試験問題にチャレンジ、文法・語彙篇その1
「仲間はずれを探せ」問題は、選択問題なので、ときどき日本語学や日本語教授法の受講者にもやってもらいます。過去問からいくつか、アレンジして出題。
日本語教育能力検定試験、出題内容がかなり変わったといっても、2011年も最初の出題は「仲間はずれを探せ」であることに変わりなし。例題を上げてみます。(過去問から春庭がアレンジ)
(1)次の文1~4のうちで、下線部分「~ています」が、他と性質の異なるものはどれか?
<A> 今、佐藤さんは、教室で小林さんと話し[ています]。
<B> ちょっと待ってください。今、お昼ごはんを食べ[ています]ので。
<C> 山田さんは今、銀行に勤め[ています]。
<D> 提出書類はここにあります。今、この紙に書い[ています]ので、すぐ提出できます。
アスペクト問題として基本中の基本。「~ています」という文型を教えるとき、日本語教師が知っていなければならない日本語の性質のひとつです。
何番が仲間はずれか、およそ30秒で解答していかないと、最後の問題まで行き着かない。
同じような問題を繰り返してアレンジしていますので、春庭サイトリピーターにはおなじみの問題です。15秒なら余裕。ぎりぎり30秒で答えられました?
上記のクイズが30秒以内で正解できた人は、「第2言語(外国語)として日本語を見る」という訓練が出来ている人。「どれも同じようなので、区別できない」と感じた人は、母語として日本語が身についているけれど、外国語として日本語を外から見たことがない、という人です。日本語教師は、日本語を母語としない人に日本語を教えるのですから、「外国人が日本語を学んだら、どこがむずかしいのか、どのように教えたら誤解なく習得していけるのか」を知らなければなりません。
(1の正解)C
ABDは、日本語アスペクトの「動作継続」(英語でいう現在進行形)。「飲んでいる、食べている」は、食べるという動作をずっと繰り返して続けている。「今、新宿で飲んでいる」と言えば、その時間は、「飲む」という行為を続けています。
一方、Cは、「結果存続」、すなわち現在の「状態」を表しています。「東京に住んでいる」「結婚している」「死んでいる」などがこのタイプ。
「結婚している」というのは、「結婚する」という行為(結婚式やら役所への届け出)が終わったあと、その結果の状態を続けている。何度も繰り返し、結婚届を役所に持って行く行為が続いていることではありません
「Aさん、離婚なさったそうですね。今、結婚は?」と質問されたとき、「はい、結婚します」だと、結婚はこれからする予定のことになります。結婚したのが過去のことなら「結婚?ええ、私は、今結婚しています」と、「~ている」で表現します。「ええ、私は今、結婚しました」という答えがOKなのは、結婚式の終了直後か、役所への届けでをすませたばかりの人になります。
「死んでいる」というのは、「死ぬ」という一瞬の出来事が終了したあと、その結果が存続していることを表しています。
日本語と英語では、アスペクトが異なるので、英語圏の人が作文でよくやる誤用は、「私は4月に日本にきました。今、東京に住みます」というもの。英語では「I live in Tokyo now.」で、I am living in Tokyo now.という文は英語ではまちがいです。ですから、「住んでいます」という表現が出てこずに、「住みます」となってしまうのです。
「住む」と、語源が同じ「あるものが、落ち着くべきところにおさまってくる」という意味の、「澄む」「済む」も同じです。
「外国人登録はもう済みましたか」という質問への答えは、イエスなら「はい、済みました」ですが、ノーなら、「いいえ、まだ済んでいません」と、「~ていない」で答えます。「いいえ、まだ、すみません」と答えても、意味は通じると思いますけれど。「すみません」は、挨拶用語になっていますから、「いいえ、すみません」だと、登録未完了を謝罪しているようにも聞こえます。
「昨日池の水は雨で濁っていました。、今日はどうですか」と、質問されました。池が今、きれいな状態なら、「はい、今日は済みます」「いいえ、済みません」ではなく、「ええ、今日は澄んでいます」と、「~ている」の形で答えます。「はい、今澄みました」とか、「はい、今日は澄みます」ではないですね。
日本語母語話者は、文法など考えずに無意識にこれらのことを使い分けて表現しているのです。しかし、日本語学習者は、日本語文法を教わりながら、ひとつひとつ文型を覚えていくのです。
日本語母語話者は、これらの使い分けがきちんと出来ますが、今まで無意識だったでしょう。日本語教師修行とは、「無意識にできてきたことを、意識化する」ということです。
では、意志と意識に関わる問題。
(2)「意志」という観点から、他と性質の異なる動詞を選びなさい。
A)この子は、いつのまにか私の大事な時計を[壊した]んです。幼い子どもだと思って油断していたのが悪かった。
B)うっかり車の鍵を[落とす]なんて、間抜けだよね。
C)成績を[上げる]には、毎日の勉強が大切だ。
D)試験終了したら、解答用紙を[閉じる]こと。
E)答えがわからないなら、眼をつぶって5つの中からひとつを[選ぶ]といいよ。
ヒント:「さあ、~しよう」という形にできれば、意志動詞です。
「さあ、成績を上げよう」
ACDは、行為者の意志が必要な動作。Bは、行為者がその動作を行おうとする意志を持っていなくても起こる(無意志動詞)。「さあ、うっかり車の鍵を落とそう」という文は成立しない。
答え B
2の応用編
(3) 意志動詞を選んでください。(事態を自分でコントロールできるかどうか)
A)悔やんでも[悔やみ]きれぬ
B)くやしくて、涙が[流れる]
C)哀しくて、私の頬に雨が[降る]
D)妻の気持ちがわからず、[いらだつ]
E)子を[叱る]たび、むなしさが広がる
ヒント:意志を表す形にしてみる。「みる」の意志形は「みよう」
動作の対象となるものがあり、意志を表現できる動詞は、意志形になります。「きちんと子を叱ろう」「食べよう」「働こう」など。
しかし、「あしたはいらだとう」「雨が降ろう」などは、推量にはなるが、意志の表明にはならない。
「~ておく」という表現が出てきたとき、学生に短い文を作らせると、「明日パーティです。友達がくるので、ビールを冷やしておきます」「花を飾っておきます」などの正文のほか、「ビールが冷えておきます」「部屋がきれいになっておきます」なども作る。自動詞表現は無意志表現となるほか、「うっかりお金を落とす」などの、他動詞形であっても、無意志動詞の場合は、「うっかりお金を落としておく」とはならない。
答え E
そして、自動詞他動詞は、日本語は英語とも異なるし、中国語には自動詞他動詞の形の区別がありません。学習者の誤用が多出する文法項目です。
<つづく>
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>ステップバイステップ日本語教師養成講座(3)検定試験問題にチャレンジ、文法・語彙篇その1
「仲間はずれを探せ」問題は、選択問題なので、ときどき日本語学や日本語教授法の受講者にもやってもらいます。過去問からいくつか、アレンジして出題。
日本語教育能力検定試験、出題内容がかなり変わったといっても、2011年も最初の出題は「仲間はずれを探せ」であることに変わりなし。例題を上げてみます。(過去問から春庭がアレンジ)
(1)次の文1~4のうちで、下線部分「~ています」が、他と性質の異なるものはどれか?
<A> 今、佐藤さんは、教室で小林さんと話し[ています]。
<B> ちょっと待ってください。今、お昼ごはんを食べ[ています]ので。
<C> 山田さんは今、銀行に勤め[ています]。
<D> 提出書類はここにあります。今、この紙に書い[ています]ので、すぐ提出できます。
アスペクト問題として基本中の基本。「~ています」という文型を教えるとき、日本語教師が知っていなければならない日本語の性質のひとつです。
何番が仲間はずれか、およそ30秒で解答していかないと、最後の問題まで行き着かない。
同じような問題を繰り返してアレンジしていますので、春庭サイトリピーターにはおなじみの問題です。15秒なら余裕。ぎりぎり30秒で答えられました?
上記のクイズが30秒以内で正解できた人は、「第2言語(外国語)として日本語を見る」という訓練が出来ている人。「どれも同じようなので、区別できない」と感じた人は、母語として日本語が身についているけれど、外国語として日本語を外から見たことがない、という人です。日本語教師は、日本語を母語としない人に日本語を教えるのですから、「外国人が日本語を学んだら、どこがむずかしいのか、どのように教えたら誤解なく習得していけるのか」を知らなければなりません。
(1の正解)C
ABDは、日本語アスペクトの「動作継続」(英語でいう現在進行形)。「飲んでいる、食べている」は、食べるという動作をずっと繰り返して続けている。「今、新宿で飲んでいる」と言えば、その時間は、「飲む」という行為を続けています。
一方、Cは、「結果存続」、すなわち現在の「状態」を表しています。「東京に住んでいる」「結婚している」「死んでいる」などがこのタイプ。
「結婚している」というのは、「結婚する」という行為(結婚式やら役所への届け出)が終わったあと、その結果の状態を続けている。何度も繰り返し、結婚届を役所に持って行く行為が続いていることではありません
「Aさん、離婚なさったそうですね。今、結婚は?」と質問されたとき、「はい、結婚します」だと、結婚はこれからする予定のことになります。結婚したのが過去のことなら「結婚?ええ、私は、今結婚しています」と、「~ている」で表現します。「ええ、私は今、結婚しました」という答えがOKなのは、結婚式の終了直後か、役所への届けでをすませたばかりの人になります。
「死んでいる」というのは、「死ぬ」という一瞬の出来事が終了したあと、その結果が存続していることを表しています。
日本語と英語では、アスペクトが異なるので、英語圏の人が作文でよくやる誤用は、「私は4月に日本にきました。今、東京に住みます」というもの。英語では「I live in Tokyo now.」で、I am living in Tokyo now.という文は英語ではまちがいです。ですから、「住んでいます」という表現が出てこずに、「住みます」となってしまうのです。
「住む」と、語源が同じ「あるものが、落ち着くべきところにおさまってくる」という意味の、「澄む」「済む」も同じです。
「外国人登録はもう済みましたか」という質問への答えは、イエスなら「はい、済みました」ですが、ノーなら、「いいえ、まだ済んでいません」と、「~ていない」で答えます。「いいえ、まだ、すみません」と答えても、意味は通じると思いますけれど。「すみません」は、挨拶用語になっていますから、「いいえ、すみません」だと、登録未完了を謝罪しているようにも聞こえます。
「昨日池の水は雨で濁っていました。、今日はどうですか」と、質問されました。池が今、きれいな状態なら、「はい、今日は済みます」「いいえ、済みません」ではなく、「ええ、今日は澄んでいます」と、「~ている」の形で答えます。「はい、今澄みました」とか、「はい、今日は澄みます」ではないですね。
日本語母語話者は、文法など考えずに無意識にこれらのことを使い分けて表現しているのです。しかし、日本語学習者は、日本語文法を教わりながら、ひとつひとつ文型を覚えていくのです。
日本語母語話者は、これらの使い分けがきちんと出来ますが、今まで無意識だったでしょう。日本語教師修行とは、「無意識にできてきたことを、意識化する」ということです。
では、意志と意識に関わる問題。
(2)「意志」という観点から、他と性質の異なる動詞を選びなさい。
A)この子は、いつのまにか私の大事な時計を[壊した]んです。幼い子どもだと思って油断していたのが悪かった。
B)うっかり車の鍵を[落とす]なんて、間抜けだよね。
C)成績を[上げる]には、毎日の勉強が大切だ。
D)試験終了したら、解答用紙を[閉じる]こと。
E)答えがわからないなら、眼をつぶって5つの中からひとつを[選ぶ]といいよ。
ヒント:「さあ、~しよう」という形にできれば、意志動詞です。
「さあ、成績を上げよう」
ACDは、行為者の意志が必要な動作。Bは、行為者がその動作を行おうとする意志を持っていなくても起こる(無意志動詞)。「さあ、うっかり車の鍵を落とそう」という文は成立しない。
答え B
2の応用編
(3) 意志動詞を選んでください。(事態を自分でコントロールできるかどうか)
A)悔やんでも[悔やみ]きれぬ
B)くやしくて、涙が[流れる]
C)哀しくて、私の頬に雨が[降る]
D)妻の気持ちがわからず、[いらだつ]
E)子を[叱る]たび、むなしさが広がる
ヒント:意志を表す形にしてみる。「みる」の意志形は「みよう」
動作の対象となるものがあり、意志を表現できる動詞は、意志形になります。「きちんと子を叱ろう」「食べよう」「働こう」など。
しかし、「あしたはいらだとう」「雨が降ろう」などは、推量にはなるが、意志の表明にはならない。
「~ておく」という表現が出てきたとき、学生に短い文を作らせると、「明日パーティです。友達がくるので、ビールを冷やしておきます」「花を飾っておきます」などの正文のほか、「ビールが冷えておきます」「部屋がきれいになっておきます」なども作る。自動詞表現は無意志表現となるほか、「うっかりお金を落とす」などの、他動詞形であっても、無意志動詞の場合は、「うっかりお金を落としておく」とはならない。
答え E
そして、自動詞他動詞は、日本語は英語とも異なるし、中国語には自動詞他動詞の形の区別がありません。学習者の誤用が多出する文法項目です。
<つづく>