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ぽかぽか春庭「日本語教師検定チャレンジ文法、文法・語彙篇その3」

2012-05-27 00:00:01 | 日本語教育
2012/05/27
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>ステップバイステップ日本語教師養成講座(5)検定試験問題にチャレンジ文法、文法・語彙篇その3

 日本語学習者の誤用は、教師にさまざまなことを教えてくれます。
 学習者の誤用を考察すると、日本語の性質がよくわかってきます。日本語教師は毎日のように誤用にでくわし、おなじみの誤用も多い。 
 しかし、はじめて出会う誤用があると、みなで、「学習者にどのように説明したらわかってもらえるのか」と頭をひねります。

 5月25日の講師室では、A先生から出された学習者誤用文について、みなで「う~ん、どういう説明が一番わかりやすいのか」と知恵を出し合いました。A先生が学習者に教えた例文は次の通り。「~がち」という語の練習です。

例文)・お年寄りは、昔のことをよく覚えていますが、新しいことは忘れ[がち]です。
・留学生の中には、授業をなまけ[がち]になる学生もいます。

 日本語辞書による「~がち」の説明を確認しておきましょう。
・岩波国語辞典:(1)他の部分に比べて多いこと「黒目がち」(2)とかく~の傾きがあること「曇りがち」「忘れがち」
・大辞林第3版:( 接尾 ) 名詞または動詞の連用形に付く。 ともすれば,そうなりやすい傾向を表す.....
・デジタル大辞泉: [接尾]名詞や動詞の連用形に付く。 …が多い、…する傾きがある、…に傾きやすい
・広辞苑:体言またはそれに準ずるものについて、そのことが「しばしばである」「その方に偏する」意をあらわす。「雨がち」「遠慮がち」

 留学生が作成した文。
誤用文A「5月は晴れの日が多いです。洗濯物が乾きがちです」
   B「夏の夕方、急に雨がふります。これは、ゆうだちです。傘がないとき、外を歩くと、服が濡れがちです」

 留学生の作った文、辞書の説明に照らせば、辞書の説明のとおり、「~する傾向がある」「~が多い」という意味で「~がち」を使っています。しかし、日本語母語話者の内省によると、この使い方にはどこか違和感が残ります。なぜ、この留学生の文が「正しい」と思えないのでしょうか。講師室での議論の結果、辞書の説明に不足している観点があることがわかりました。

 教師は、留学生のためには、辞書には説明されていないことも付け加えていきます。
 Aについて。
 「~の傾向がある」という意味で「~がち」を現代語の文脈の中で使用するとき、「望ましい現象」「期待される行動」とは異なる方向で「~する傾向がある」という場合に用いられる。「洗濯物が乾く」というのは、洗濯を干すとき期待する結果であるから、期待通りになる場合「乾きがち」と表現するのは、誤用である。
 Bについて。
 夕立の中、外を歩いたら、特別な場合以外、服が濡れる結果になることは必然の結果で、誰でも知っている。必ずそうなることが予測される現象・行為について「夕立の中を歩くと、服がぬれがち」とは言えない。

 結論:そういう事態になることが必然であると予測できない行為・現象のうち、望ましい結果にならない傾向があるばあい、「~がち」を用いる。

 ・百年前に買ったおじいさんの時計。今も動いているけれど、古いので遅れがちです。(時計は遅れないことが望ましいので、この使い方はOK)
 ・梅雨時はおなかをこわしがちですから、食べ物に注意しましょう。(梅雨時におなかをこわすことは必然ではないが、そうなる傾向が多い)

 ・吊り橋の上で異性に出会うと、恋に落ち入りがちです。(恋に落ちるのは「望ましくないこと」とは言えない。しかし、吊り橋現象で恋に落ちるのは、不安な心理がもたらす「錯覚の恋」であることが多いから、「望ましくない結果」をもたらすゆえ、この「~がち」の使い方はOK。
 私なんぞ、ナイロビの町に着いたその日、はじめて街中を歩いて迷子になり、町を案内してくれたタカ氏と結婚してしまいました。吊り橋現象そのままですね。望ましくない結果になったことは言うまでもありません。

 以下、日本語学習者のおちいり[がち]な日本語誤用をみていきましょう。 

(12)場所をあらわす助詞「に」と「で」の違いについて例文を作っているとき、学習者が「彼は、上野銀行で[勤めて]います」という文を作った。下記の誤用文のなかで、同じ種類の誤用をしているのはどれか。

A)彼は、上野で銀行員[します]。
B)彼は、銀行ATM(現金自動預け払い機)で、お金を[あげます]。
C)彼は、上野で電車に乗る[気持ちです]。
D)彼は、上野で電車を[くだります]。
E)彼は、上野で[住んで」います]。

ヒント:添削して、正しい文に直してみる。上野銀行で勤めています→上野銀行に勤めています。(助詞の誤用)
 
 他は、A:銀行員をしています B:お金を預けます(預金します/入金します)C:電車に乗るつもりです。D:電車を降ります、など、述語部分の誤用である。
 Eは「上野に住んでいる」と、助詞の誤用を直す。

 答え E

 「銀行で働いている」と「銀行に勤めている」を比較すると、前者は「働く」という動作の活動場所が銀行なので助詞は「で」。後者は「勤める」という状態の存在場所が銀行なので、助詞は「に」。助詞の間違いは、英語話者にも中国語話者にも多い。

(13)誤用の種類からみて、間違いの種類が異なる誤用文をひとつ選びなさい。
A)私は、毎日洗濯したくないです。洗濯が[好きくない]ですから。
B)東京は広いです。私の部屋の窓から、東京が[丸見え]です。
C)池で魚が[水泳して]います。
D)富士山は高い山です。私は一日じゅう、[よじ登り]ました。疲れました。
E)日本の家の玄関に入りました。私は、靴を脱いで部屋に[のぼりました]。

 Aは、若い日本語母語話者に広がっている用法。「好きではない/好きじゃない」の「好きな」を形容詞活用のように「すきくない」として用いる人が増えています。「若者言葉」に染まり[がち]な留学生には「友達とおしゃべりするときはいいけれど、試験のときはバツにするよ」と、話しています。

 B~Eは、語彙の意味用法の差を無視した間違いです。Bを添削するなら「東京がよく見える」がよいでしょう。「丸見え」は、見るべきではないもの、見たくないものが全部見えたときの言い方。「よく見える」は、見たいものが見えるとき。
 魚は「泳ぐ」のみ。「水泳する」のは、人が訓練によって泳げるようになったあとの行動。アイフォンなどの辞書機能を使うと、swimの訳語として、「水泳(する)、泳ぐ」が同じレベルで並んでいるので、意味のちがいに留意しない日本語学習者もいます。

答え A

 「のぼる」「よじのぼる」「あがる」など、似た内容でも異なる意味を表す場合の使い分けも学習者は、ひとつひとつ例文で覚えていかなければなりません。辞書に書いてある意味だけでは、「のぼる」と「あがる」の使い分けがわかりにくいのです。どちらも「上方への移動」を表します。しかし、富士山に登るとは言えても富士山に上がるとは言えず、成績があがった、とは言えても、成績がのぼった、とは言えません。

 玄関からたたきを踏んで畳の部屋に入るときは、「部屋にあがる」であって、「部屋にのぼる」ではありません。でも、「富士山にあがる」とは言わないけれど、さて、階段は?「その階段をあがってお二階へどうぞ」でしょうか「その階段をのぼって、お二階へどうぞ」でしょうか。
 東京タワー、スカイツリーへは?「エレベーターで展望台にあがる」「展望台にのぼって外を見た」
 気温が上昇するときは?「きのうより気温があがった」「立夏をすぎ、気温はどんどんのぼっていく」
 文脈により使い分けが可能な場合もありますね。

(14)複合語の要素(意義素、形態素)の統語的関係という観点から、次の語のうちの仲間はずれを選びなさい。
A)揚げ油  B)包み紙  C)落とし蓋  D)縫い針  E)すり鉢

ヒント:「~するための」を加えて言い換える。天麩羅を揚げるための油、ものを包むための紙

 Cは、「ものを落とすためのふた」ではない。「おとし蓋」とは、ふたを鍋の上におくのではなく、鍋より一回り小さい蓋を鍋の中に入れ込むことを言います。
 D、布を縫うための針、E、ものを摺るための鉢。

答え C

 料理教室の先生が「煮物の鍋に落とし蓋をしてください」と受講生に言ったら、若い女性たち、みな蓋を高くあげて鍋に落とした、という笑い話があります。若い日本語母語話者、日本語がどんどんわからなくなっていますから、日本語学習者のまちがいを笑えません。

(15) 換喩(メニトミー)という比喩は、一部分の提示により全体を表す修辞技法である。次の例文の中で、メニトミーでないものを選びなさい。
A)[赤頭巾]は狼に食われた。
B)[漱石]を読み、感銘を受けた。
C)[諭吉]がないから今日は買い物に行かない。
D)一橋大学は、[一橋]から国立に移転しても一橋大学だ。
E)原発事故は、[永田町]を揺り動かした。

 
A)「赤頭巾」の一語で、「赤頭巾をかぶっている女の子」を表すメニトミー 
 以下、B)漱石が書いた本 C)諭吉の肖像画があるお札 E)永田町にある国会議事堂にいる議員をはじめとする人々、を表しているメニトミーです。 
D)は、通常の地名、大学名を表すのみ。

答え:D

(16)翻訳をする場合、英語との対照という観点から、次の語のなかで仲間はずれになるのはどれか。
A)親指  B)人差し指  C)中指  D)薬指  E)小指

答え A
 英語翻訳では、Aはthum、 BCDはfinger

(17) 新聞記者が事実を伝える報道文。事実でないことは書けません。翻訳する場合、英語との対照という観点から、一番翻訳者が訳しにくい語はどれでしょう。

日本語文「津波に おそわれ、その母親は、こどもの手をひき、無我夢中で逃げた」

A)つなみにおそわれ  B)その母親は  C)こどもの手をひき  D)無我夢中で  E)逃げた

 「つなみ」は英語でも「tsunami」です。英語のなかに日本語から入った外来語のひとつ。
 さて、事実の報道として翻訳がむずかしいのは、「こども」です。この母親の子どもがひとりだったのか二人以上だったのか、書いてありませんが、翻訳するとき「child」か「children」のどちらかを選ばなければなりません。もし、母親が両手にひとりずつ子どもの手をにぎっていたなら、childだと事実とことなります。childrenと訳したとき、こどもがひとりだったら、事実に反します。

答え C 

 「その母親」の家族を知っているなら子どもの数がわかりますが、知らないなら、翻訳は困難になります。
 翻訳がむずかしいのは、「日本語としてむずかしい語であるかどうか」ではなく、英語(その他の外国語)との概念が異なっているかどうか、あるいは、その外国語にない概念の語をどう訳すか、です。

 「池で魚が水泳しています」という学習者の作文が出てくるのは、辞書に出ている語を安易にならべるからです。辞書を買わずにアイフォンなどに含まれる辞書機能を使う学生が増えた結果、単純な変換をする学生が多くなったような気がしています。例文を覚える努力よりアイフォン辞書を使うからです。

 5月24日に私の受け持ちクラスで学生が書いた作文。「日本に来る前に住んでいた町について、クラスメートに説明してください」という課題でした。

 「ジャカルタは大きい町です。町は、しゅうみつです」
 「しゅうみつ」の意味が即座には理解出来ませんでした。「きょうしつ教室」と書かせると「きゅしつ」と書いたりすることもある学生ですから、「しゅうみつ」は「しょみつ」「しゃっみーつ」の間違いかもしれません。いったい、何が言いたかったのでしょう。わからないので英語で説明してもらったら、「人口密度が高く、人が大勢いる、ということを言いたかったのです。
 アイフォン辞書を調べたら、「周密」という語が出てきたので、そのまま使ったのでした。

 おそらくは、過密、綿密、緻密、周密などが並んで出てきた中で選んだのでしょうが、人口密度を言うなら過密を用いた方が良かったかも。
 中級になると、「過密、綿密、緻密、周密」の意味の違いを知り、これらを使い分けることが課題になるのですが、今の段階では、初級では習わない「周密」は諦めてもらい、「町には人が大勢います」に書き換えさせました。

 翌日の「発表」クラスでは、それぞれ「わたしの町」の写真や絵はがき、インターネット資料などを駆使して、作文を読み上げ、「私の好きな町」を紹介したそうです。とても良いプレゼンテーションができたと、発表を受け持った先生から報告があり、作文指導した甲斐がありました。 

<つづく>
コメント (10)
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