春庭Annex カフェらパンセソバージュ~~~~~~~~~春庭の日常茶飯事典

今日のいろいろ
ことばのYa!ちまた
ことばの知恵の輪
春庭ブックスタンド
春庭@アート散歩

ぽかぽか春庭「日本語教師検定試験問題にチャレンジ、発音篇」

2012-05-29 00:00:01 | 日本語教育
2012/05/29
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>ステップバイステップ日本語教師養成講座(5)検定試験問題にチャレンジ、発音篇

 私がいつも学生に話す、撥音「ん」の音(発音)について。(撥音と発音は、同音異義語なので、まぎらわしいですね)
 「ん」の音をどのように発音しているか。私たちは、意識せず、異なる音を発音しているのです。
「ん」の話をするのは、日本語教師を希望する人に、言語によって意味の違いを形作る音が異なり、違う発音をしていても意味の違いが生じない場合があることを伝えるためです。

 日本語では、「れんしゅう練習」と「ねんしゅう年収」は、異なる発音として意識され、異なる意味を表しますが、中国の南部地方の福建語話者などは、「れんしゅう、ねんしゅう」はまったく同じ発音に聞こえ、区別がむずかしいのです。区別が難しい発音がある、ということを理解してもらうために、日本語母語話者の「ちがう発音していても区別できない音」を示すのです。
 
ア)珊瑚(さんご)イ)三人(さんにん)ウ)秋刀魚(サンマ)

 ア、イ、ウの「ん」がそれぞれ異なる発音の「ん」であることを、日本語母語話者は日常の会話で意識することはありません。これを「異音」と言います。日本語母語話者は、「ん」の音として、ア[n]、イ[ng]、ウ[m]と3種類の発音をしているのです。しかし、別の音を出していると意識することなく、どれも同じ「ん」だと思っています。
 
 異音とは、別々の音を同じ音として認識することです。これは、英語では別々の音として意識される「R」と「L」の音が、日本語では異音であるので、light(灯り)とright(正しい)がまったく同じ「ライト」という外来語になるのと同じ現象。bath(ふろ)もbus(バス乗合自動車)のどちらも「バス」。これも日本語にとって、「s」と「th」は同じ音に聞こえるからです。 

 では、この応用。発音の問題。仲間はずれを探せ。
(1) 次のA~Dのうち、ア、イ、ウに近い音の「ん」はどれですか。
ア)珊瑚(さんご)イ)三人(さんにん)ウ)秋刀魚(サンマ)

A)今、ベルリンがホットスポット
B)この夏ロンドンに行くつもり
C)ホンコンまでボート漕ぐのは、無理。
D)在ペキン外資企業事務所。
E)今、台湾(タイワン)が面白い
F)この夏、台湾(タイワン)へ行きたいなあ
G)今年の夏こそ、台湾(タイワン)人気スポットめぐりの観光ツアーにどうぞ。
H)台湾(タイワン)みたいな暖かいところで暮らしたい。

 「ん /n/」の発音は、単語ごとに決まっているのではなく、次にどんな音が来るかで決まるのです。
 ガ行の前の「ん」は/ng/、バ行、パ行、マ行の前では/m/、その他は/n/です。

答え ア A、D、E   イ B、F、G   ウ C、H

(2)次の「ん」の発音のA~Dの語の中で、他とひとつだけ異なる発音をする語を選びなさい。
1番 A)因果(いんが)B)因縁(いんねん)C)冤罪(えんざい) D)堪忍(かんにん)
2番 A)音楽(おんがく)B)音符(おんぷ)C)憲法(けんぽう)D)田んぼ(たんぼ)
3番 A)散歩(さんぽ)B)担当(たんとう)C)新人(しんじん)D)観戦(かんせん)

答え 1,2,3とも仲間はずれの発音は(A)
  

 異音の例をもうひとつ。こちらも「異音」のひとつですが、ふたつが異なる発音だと認識できる人も多い。ただし、若い人は認識できない。以下の文を朗読してみましょう。

(3) A~Eの「が」を二つに分類してください。
A)クラシックおんがく(音楽)は好きじゃない、B)でも、がっこう(学校)へ行かないと、ミュージシャンになるのを認めないって、C)がんこ頑固オヤジだけじゃなく、D)おふろもまでが、泣くもんで、やっとこ卒業した今は E)晴れて立派なミュージシャン。夢がかなって生きられる。ストリートがオレの舞台。

 BCの「が」と「ADE」の「が」は、異なった発音です。(昔のNHKアナウンサーはこの違いを発音できないと採用されなかった)
 BCは口から声が出る「口音」で、ADEは、鼻から息が出る鼻音、「鼻濁音」の「が」です。しかし、鼻濁音を区別できない若い人が多くなり、この先、消滅していくかもしれません。

答え  ADE 鼻濁音  BC 口音濁音

 つぎに、音節について。
 子音と母音を組み合わせた「音のひとまとまり」を「音節」といいます。
 日本語の母音は「ア、イ、ウ、エ、オ」の5つです。
 では、子音は?
 子音は、無声音:/k/、/s/、/t/、/h/、/p/ 
     有声音:/g/、/z/、/d/、/n/、/m/、/b/、/r/ 
 ほかに、半母音(母音と子音の両方の性質を持つ):/w/、/y/ があります。

(4)外来語、「ストレート(まっすぐ、という意味)」は、5つの音節があることばです。手をたたいて言うとき、たたく回数は、ス、ト、レ、-、ト、と、5回です。
 では、英語でStraight(まっすぐ)というとき、手をたたく回数は何回?

A)1回 B)2回 C)3回 D)4回 E)5回

 
 Straightという語の音節は、ひとつです。手を一回たたくだけ。Straightは、母音がひとつで子音が4つ組み合わさっている音節です。
 しかし、日本語では必ず「子音+母音」というひとまとまりで発音するため、[su][to][ra][i][ku]という発音になるのです。英語の歌を歌うと、音符とことばが合わなくなってしまうのは、このためです。
 日本語のストライクと、英語のStrikeも同じ事。

答え A

(4) 四つ仮名表記と連濁
 発音と文字表記の関係。江戸時代から問題になってきたのが、ずづ、じぢのかき分けです。古来の発音「づ」「ぢ」が、室町時代から「ず、じ」と混用されてきて、江戸時代には「ずづ」「じぢ」の発音がまったく同じになってしまったために、ことばのかき分けが問題になりました。このことは、『蜆縮涼鼓集』(けんしゅくりょうこしゅう1695年発行)という本に書いてあります。

 四つ仮名「ずづ、じぢ」の表記において、の元の語が連濁によって濁音となるばあい、元の語の表記に濁点をつける、ということを教えるのにふさわしい語はどれか。
A)青白い  B)布地  C)仮住まい  D)三日月 E)赤ずきんちゃん

答え D
 三日みっか+月つき→みかづき

(5)初級学習者に助数詞を教える場合、発音の変化という観点から見て、最初に導入し、学生にかぞえさせる練習をするのに、もっともふさわしいと思う組み合わせはどれか。

A)枚(紙を数えさせる)と台(パソコンを数えさせる)  
B)冊(本)と個(消しゴム) 
C)杯(コーヒー)と本(ペン)
D)人にん(学生)と匹(猫)
E)脚(いす)と足(靴)

答え  A
本は、ぽん、ぼん、ほんと発音が変化し、1も、「いち」のときと、「いっ」となるときとある。どのように変化するか、法則はきちんとあるのだが、助数詞に慣れるまでは、発音が「まい」ひとつで変化しないため紙を数えさせる。パソコンや車を「台」で数えるのは混乱がない。しかし、鉛筆を数えさせると、いちほん、にぽん、さんぽん、ろくぼん、など、混乱する。

(6)[子音の調音点]という観点から、A~Eの中の仲間はずれを選びなさい。
A)か[ka] B)せ[se] C)た[ta] D)つ[tsu] E)に[ni]

 「調音点」というのは、その音を発音したときの、舌や唇など、音を出している部分の位置です。母語を話すとき、人はどのようにしてその音を作り出しているか、まったく無意識です。しかし、外国語を習うと、「sank 」と「thank」では、舌の位置が異なることに気づきます。「I sank you.」は、「私はあなたを沈めました」という意味ですし、「I thank you.」は、「私はあなたに感謝します(ありがとう)」という意味です。「サンキュー」は、日本語では外来語として感謝を表すことばになっています。
 しかし、「サンキュー」という発音そのものは、「おまえを沈めたぞ」という意味になります。

答え A 

 kaは、ノドの奥の方で舌が盛り上がり、声をさえぎる音です。B~Eは、ゆっくり発音すれば、舌が上歯の裏あたりにくっつくか、くっつきそうに近づくことがわかると思います。

 「サンキュー」とカタカナ発音すると、英語では「お前を沈めた」の意味になると書きましたが、実際に英語圏でそのような誤解を受けたという話はききません。ホテルでドアボーイに「サンキュー」と言えば、「ユーウェルカム」と返してくれるでしょう。外国人の発音が多少違っていても、そこは推察してくれるからです。
 レストランへいって「ライス、プリーズ」と発音したからといって、「しらみ」が出てくることはないでしょう。

 外国人が日本にきて、親切にしてもらい、多少わかりにくい発音で「アリゲーター」とお礼を言ったとき、発音が悪いからと怒り出す人はいません。アリゲーターでも「この人は、ありがとう、と言いたかったんだな」と、わかるからです。

 外国人が日本に来て感謝の気持ちを伝えようと、ひとつおぼえで「Crocodileクロッコダイル(ワニ)」と連発する。何事かと思ったら、その人は、日本語で感謝を伝えるには、「アリゲーターAlligator(わに)」と言えばよい、と教わったのでした。
 「アリゲーター」と言っておけば、ちょっと発音は悪いガイジンが「ありがとう」と言ったように聞こえるからです。それが、脳内変換でアリゲーターがクロッコダイルになってしまい、「thank you」と言うとき「クロッコダイル」と言い続けた、と、これは笑い話ですが、外国語の習得、いつでも誤解はころがっています。

 誤解されないように指導していくことが肝心。「びょういんへ行きます」と「びよういんへ行きます」では、意味が異なり、おしゃれをしてくるつもりが「えっ、どこが悪いの」など、誤解を受けてしまいます。デパートで「地図売り場はどこですか」と「チーズ売り場はどこですか」を区別できなければ、チーズを買うつもりなのに、文房具売り場に案内されてしまいます。

 日本語教師、日本語の意味や発音を考察しつつ、日本語学習者の撥音を訂正していきます。

<つづく>
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする