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ぽかぽか春庭「2003年の夏4」

2013-07-17 00:00:01 | エッセイ、コラム
2013/07/17
ぽかぽか春庭・知恵の輪日記>2003年の夏(4)磁力と重力の発見

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2003/07/21日 月 曇り 
トキの本棚>『磁力と重力の発見』

 日曜日の朝日読書欄に山形浩生の書評で『磁力と重力の発見』、著者名を見て「おお、あの山本義隆か」と思う。
 書評を読むと、「本書の著者名を聞いて、書評委員会は一瞬どよめき、自分の知らない時代のできごとが、三十年たっても、深い刻印を残していることにぼくは改めて驚いた。」と山形は書いている。やっぱり、どよめくでしょ。自分の知ってる時代のできごとだもの。

 山形は予備校で山本義隆に物理を教わったのだという。「全共闘騒動の最大の損失は、山本義隆が研究者の道を外れ、後進の指導にもあたれなかったことだ、という人さえいた」と、山形は書く。「でも、プラスの刻印もあった。その事件のおかげで、ぼくをはじめ無数の受験生が予備校でこの人に物理を教われたのだもの。かれが教えてくれたのはただの受験テクニックじゃなかった。物理は一つの世界観で、各種の数式はその世界での因果律の表現だと言うことを、かれは(たかが受験勉強で!)みっちりたたき込んでくれたのだった。」

 こういう文章を読むと、それだけで泣きたくなる。弱い。この山本へのオマージュを読んで、救われた気持ちになってしまうほどの弱虫世代。

 山本らを踏みつけて、80年代90年代をのしてきた元全共闘、元ノンポリ、元心情三派。バブルに踊りつつ、食うためにあるいは「欲っするままにむさぼり食うため」30年生きてきた一団は、「あの時代を引きずっている馬鹿な奴ら」をせせら笑いながら天下り先でもさがすのだろう。

 私は70年には「医療労連組合員」であり、75年には「日教組」だった。
 「出世コース」を突っ走る人を斜めに見てひがみ、全共闘の後、学問の世界から方向を変えていった多くの研究者候補たちが、「ただ時代のためでなく」地に伏した姿を横目で見て、うしろめたく思うのみだった。
 30年前も何もせず、今も何もしていないうしろめたさを背負っている。私は何もできず、何もしてこなかった人間だけれど、でも「自分の生きていく社会を変えたかったし、今でも変えたいと思っている」その思いだけは持続している。たぶん、これって若い世代からは「レトロ」「アナクロ」と、ひとくくりにされてしまう感情なんだろう。

 何年か時代がずれていれば、山本は東大に残り、物理学の研究者として研究生活をまっとうしたのかもしれない。今頃は東大か、どこかで教授になっていたのかもしれない。だが、それがどうした。彼が生きた「予備校講師」の30年で、いくつかの著書を残し、彼の講義を「世界観の醸成」と受け止める予備校生を大学へ進ませ、彼は彼なりに物理学を「彼の生き方」として提示したのが、この著書三部作なのだろう。(読んでもいないのに、予想だけでの感想)

 私は山本義隆の予備校講師人生を断固支持する!「企業に頼らない自立人になる」と言って、田舎町の駅前で焼鳥屋をやりながら、飲むほどに「俺たちの若いころはなぁ」とクダをまくおやじを支持する。あまりもうからないように思える医院で、ぶっこわれかけた医療機器をなだめすかしながら診療する九州田舎町の医者を支持する。

 私は、万国の労働者にもバンコックのストリートチルドレンにも連帯せずに、7月中あと残り8コマの授業をヒーコラとこなすのだ。立て!なえたるモノよ。いまぞ夏休み近し!

本日のつらみ:私に「おまえはプチブル思想をひきずっている、自己批判せよ」と言った者たちよ、私は今でもプロレタリア


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2003/07/22 火 曇り 
ジャパニーズアンドロメダシアター>『少女の髪留め』

 イズミさん、今日で辞任。今週中に台湾高雄へ出発。単身赴任で2年間。出稼ぎといっても、イランに出稼ぎにいくアフガン人とは大違い。

 『少女の髪留め』は、テヘランの建設現場で働くイラン人青年ラティフとアフガン難民ナジャフ一家の物語。けがをした父親のかわりに少年ラートマと偽って働く難民少女バラン。バランが女の子とわかって思いを寄せるラティフ。
 なによりバランがとてもかわいい。少年のふりをしていたときは眉も濃くして「かわいい男の子」の風貌だが、ブルカを着た少女の姿になったときは眉も作り、初々しい少女の清純なかわいらしさ。  バランは「雨」の意味だという。バラン役のザーラ・バーラミは、本当にアフガン難民村の出身。ほかのアフガン難民たちの役も、素人のアフガン人が出演している。難民のバランたちがIDカードもなく、ひどい労働条件でイランで出稼ぎしている間にも、アフガニスタンの親戚は、戦場となった町で死んでゆく。

 バランが女の子だとわかってから、ラティフはできる限りのことをしてバラン一家を助けようとする。最後は自分の命の次に大事な身分証明書を売り、金を作ってやる。その金で、一家はアフガニスタンに帰国することになる。IDを失ったラティフの将来は暗いだろう。でも、生涯最初の恋のために、これだけのことができたラティフは幸せ者だ。少なくともちょっとアルバイトをしてはあぶく銭を遊びにつぎ込む日本の若者に比べれば、なんと心豊かに生きていることだろうか。

 この映画が『一票のラブレター』より私にとって心にしみるのは、やはり、ラティフが成長するからなのだ。ラティフは、けんかっ早くて、仕事はできるだけ楽をしようとする17歳。父親から現場主任のメマルに預けられ、給料もメマルによって管理されている。ラートマに炊事係の仕事をとられると、いやがらせを繰り返したラティフが、ラートマが実は女の子だったことを知ると、恋しい女の子に身を犠牲にしてまで献身する男に変貌する。この純粋さ、一途さは幼いゆえとも言えるだろうが、人間のもっとも美しい心を成長させたとも言える。

 この映画を見た日本の若者がアフガン難民の状況を理解できるようになるのだろうか。日本から、ハワイは近いがイランやアフガンは遠い。私は東京と同じような緯度にあるテヘランが冬になるとあんなに雪がふるとは思わなかった。娘は「テヘランはイラン高原にあるんだから、海辺の東京とは条件が違うでしょ。赤道直下でもキリマンジャロには雪がふる」と、まともなことを言う。さすが地理学科。

 世界中、ほとんどの国の学生を教えたことがある私でも、アフガニスタンからの学生は、まだひとりも出会っていない。西アジアの国では、アフガン周囲のパキスタン、イラン、アゼルバイジャン、アラビア半島の石油成金国では、サウジアラビア、クェート、アラブ首長国、バーレーン、オマーン。ヨーロッパに近い方では、トルコ、ヨルダン、シリア、レバノン、イスラエル、パレスチナからの学生を教えた。しかし、アフガニスタンとイラクはない。私にとって、一番縁のうすい国。アフガニスタンが直接爆撃されている間は世界のニュースも報道したが、今はアフガニスタンの情報はほとんどない。バーミヤン遺跡を世界遺産にしようというニュースくらい。それでも、人々はアフガンで、そして難民として他国で生きていかなければならない。

 イラクのフセイン大統領一家は、未だに行方不明だが、莫大な海外資産を形成してあるので、どこで地下潜伏生活を送るのでも、最大級の贅沢三昧ができるのだという。そのほんの一部でもいいからお金があれば、イラクやイランやアフガンに学校を建てたい。

 バランがラティフに別れのことばも告げられずにアフガンへ帰るシーン。かぶっていたベールをさっと下ろして顔を隠す。これは、私の解釈では、「はじめてラティフを男と意識した少女の心の芽生えの表現」
 男のかっこうをして働いている間、顔を晒して平気でラティフの前に出ていた。別れの際に初めてバランはラティフを男として意識したのだ。だから、イスラムの掟に従って、顔を隠した。少女は去ってしまったけれど、ラティフは無視されたわけじゃない。「私にとって、あなたは男として意識される存在よ」とベールの中から見つめているのだ。ラストシーンの雨は、冬のテヘランに春をもたらす雨なのだ。

本日のかみ:少女の髪に春の雨


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2003/07/23 水 雨 
ジャパニーズアンドロメダシアター>『ホテルハイビスカス』

 午後、雨の中サントリー美術館に『古代中国の文字と至宝』展を見に行った。前回この展示をみようと思ってやってきたら、まだ始まっていなかった。6月10日から始まると明記してあるのに、私は5月10日にサントリーへ行ったのだ。これは1ヶ月まちがえた私が悪い。しかるに、6月10日から7月27日までと書いてある招待券を無駄にすまいと再びサントリー美術館にきてみれば、この展覧会は「無期延期」となっていた。
 係員は「来年に延期になりました」と言って、代わりのサントリー美術館招待券をくれた。確認しないで出かけた方も悪いと思うが、招待券に会期が書いてあるので、まさか延期になったとは思わなかった。
 中国との準備折衝折り合いがつかなかったのか、サーズの影響か?よくわからないが、とにかく現在展示中の「ロートレックとポスター展」は、あまり興味が無かったので、見ないことにした。

 雨の中でてきたのにこのまま「無駄足」だけで帰るのも気分が悪い。遅いお昼ご飯を食べてから『ホテルハイビスカス』をみることに決めた。
 単館上映の映画館にたどり着くと、冒頭20分すぎていた。が、「いいや、こういう話は冒頭の伏線がないと後半の意味が分らないというもんではあるまい」と、気にせず第2話の「フェンス」から見た。

 「いったいこの雑音は何の音」という程度に小さく聞こえた機関銃掃射音がだんだんハッキリしてきて、ジェット機離発着轟音になる。フェンスの中は基地だ。

 主人公「中曽根美恵子」のキャラがとてもよく、ホテルハイビスカスの住人その他の登場人物がひとりひとり際だっている。基地の掃射音ジェット機音がなければ、ほんとうにのどかでのびのびした、底抜けに明るい沖縄の一家の心温まる話なのだ。
 余貴美子のかあちゃんは「太陽(ティダヌ)母さん」とタイトルがつけられている。黒人のジョージとの間に生まれたハーフ(ネスミス演じるケンにいにい)と、白人のビルとの間に生まれたサチコねえねえ、山羊をつれて散歩に出るおばあ。いつもはビリヤード屋で寝ているけど、具志堅さんのパイナップル畑では力を発揮するおとうもいい味。

 でも、「ここは昔から私の土地、基地なんかじゃない」と語っていた基地の中のまやーくいおばあの家は取り壊されてしまうし、美恵子がお盆に出会う多恵子は、終戦後食べるものがなくて死んでしまった叔母(おとうの妹)だったし、沖縄が「そこぬけに明るい」だけの土地ではなく、さまざまな悲劇を底に持ち、現在もたくさんの問題を抱えている島なのだということを監督はさりげなく示していると思う。けっして声高に叫ぶのではないが。
 しかし、それより何より、登場人物のキャラがすごいので、それに圧倒されて笑いながら見終わってしまう。原作コミックを読んでから映画を見た人には、原作がはっきり示している「沖縄の諸問題」をもっと前面に出して欲しいという感想を持ったようだ。そのうち原作を読んでみよう。

 冒頭を見ていないので、もう一度みるつもり。ビデオレンタルがはじまったら、娘と息子にも見せよう。

本日のひがみ:沖縄大学のスダさん元気か?私も住みたい南の島


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2003/07/24 木 曇り 
日常茶飯事典>ボリショイサーカス

 午後、ボリショイサーカスを見に行く。蛍、花火、ボリショイサーカス、豊島園プールというのが、我が家の「夏の定番」である。蛍と花火はただで見られる。ボリショイサーカスは招待券で見られる。豊島園は共済会で安く買えるという理由で、20年間同じメニュー。
 ここ数年「今年はいっしょに花火をみる最後かな」「いっしょにプールで泳ぐ最後の夏かな」と思いながらいっしょに過ごしてきて、ボリショイも何年か前に「これで最後かも」と、しみじみしながら見たのだが、娘が二十歳をすぎ、息子が中学3年になった今年もまた、いっしょに見ることになった。いっしょにでかけるのが好きな母子である。

 娘は「教職課程介護体験」を受けるための健康診断があるからと大学へ行く。有明コロシアムの前で合流することになっていたので、自由席のB席招待券をA席指定席にランクアップする。娘がおくれてきても座れるように。
 二人が保育園小学校のころは、この「ランクアップの千円、3人分3000円払ったら、帰りの電車賃がない」という状態だったことを思えば、ランクアップして、夕食も食べて帰れる程度に財布の中にお金が残っている現在の状況、貧乏度が「最底辺から少し上」くらいにはなっているのだ。

 サーカスは、前半が犬や猫、熊の演技、目玉は空中ブランコ。後半が虎の演技、目玉がシーソーアクロバット。ブランコやアクロバットにハラハラし、犬や猫、熊の演技はかわいらしく、虎のガォーという吼え声はちょっとおそろしく、おもしろく見ていられた。私はキダムなどの「ミュージカル風サーカス」を見てみたいのだが、娘は「ミュージカルとかあんまり好きじゃないから、こういうサーカスだけの構成のほうがいい」という。

 いっしょに夕ご飯を食べるつもりだったが、娘は友だちとご飯を食べる約束をしたからと、別れる。息子と汐留めシオサイトをひとまわりした。広場でオルガンを弾いている。広場に面した店から見えるので「ここで食べよう」と誘ったのに、息子は「こういう雰囲気は落ち着かないから」という。「あんた、こんなところで雰囲気に押されちゃ、将来宮中晩餐会に招かれたとき、堂々としていられないよ」と渇を入れたのだが、マックや牛丼屋じゃないと雰囲気に負けてしまう中坊クンである。
 それで、スープストックというスープ専門店でスープだけ「腹の虫おさえ」に注文して、夕食は家に帰ってから残り物ですませた。

本日のひがみ:ボリショイ・アクロバットリーダーがほしいHP。キャノンワープロの読み出ししたい
コメント (2)
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