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ぽかぽか春庭「アイスカチャンは恋の味」

2013-07-21 00:00:01 | エッセイ、コラム
2013/07/21
ぽかぽか春庭HALシネマパラダイス>かき氷映画(2)アイスカチャンは恋の味

 『アイスカチャンは恋の味(初恋紅豆冰Ice Kachan Puppy Love )』は、2010年公開のマレーシア華人社会を舞台にした映画です。80年代のマレーシアで、内気な少年が少女への恋心とともに成長していくお話。

 アイスカチャンとは、シンガポールやマレーシアの町のそこここで売られているかき氷の一種です。かき氷の上にカチャン(マレー語で「豆」の意味)がトッピングされ、コンデンスミルクやシロップをかけてあるのが基本。フルーツゼリー、アロエ、チョコ、ドリアンなど、トッピングは各種あります。日本で言えば「かき氷宇治金時+あんみつ+フルーツ全部のせ」にイメージは近いかもしれません。店で食べるならガラスの器で供されますが、お持ち帰りはビニール袋にいれてストローがさしてあって、かき氷というより、「超甘いアイス飲み物」。
 映画の中で、若者たちはひっきりなしにアイスカチャンを食べています。

 マレーシアは、イスラムのスルタンを元首としていただく国で人口の6割はマレー人。公用語もマレー語です。しかし多民族国家で、人口の3割を中華系(華人)が占め、1割がインド系(タミル語)。
 経済の主要部を握っているのが華僑で、首都クアラルンプールでも経済的に華人が有力者となっています。
 タイに近い方の北部はことに華人が多い。本作は、華人在住の多いペラ州トゥロノ(Teronoh) が主な舞台になっています。

 マレーシア華人出身のシンガーソングライター阿牛(アニュー)の脚本監督主演作品で、第11回HHKアジアフィルムフェスティバル出品作です。

 子供の頃のヘアスタイル坊主頭(=ボタック)というあだ名が、年頃になってもそのまま呼び名にされている内気なボタック。同じ家で育ってきた少女アンチー(天使という意味)への思いが、成長するにつれて恋心へ変化してきているのを、自分では意識せずにいます。

 アンチーは、魚同士を戦わせる「闘魚」の名人で、だれのものより強い魚を育てています。勝ち気で誇り高い少女に育ったアンチーは、「打架魚(闘魚)Fiting fish」というあだ名で呼ばれています。
 アンチーは、母親がペナン島に住む父から逃げて連れてきて以来トゥロノで暮らしており、「いつか父のもとへ帰りたい」と望んでいます。父が母親を殴る暴力亭主だったことは知らず、自分にとっては優しかった父からひき離されてしまったことで、母親に複雑な思いを抱いています。

 母の月風は美人で、月風が売る焼きそばをひいきする客たちの多くが、月風の気をひきたいがために毎夜焼きそばを食べにくるのです。そんな客たちをうまくあしらうこつは知っているのに、いまだに父親を慕う娘に対しては、厳しくしつけようとするばかりで、なぜ父親のもとから逃げ出してきたか、娘に言うことができないでいます。

 ボタックは絵を描くことが唯一の心のなぐさめになっており、何枚もアンチー(打架魚)の肖像を描いているのですが、これは誰にも知られてはならない秘密。肖像は、風景画のうしろに隠しています。
 ボタックの兄は、家業のコーヒー作りは一流ですが、足が悪いため自立への志を果たせないで悶々としています。
 シンガーソングライターをめざしたい「白馬王子」も、コンクールへの応募をためらっているばかり。皆、自立の季節を前に一歩踏み出せないでいるのです。

 ふたりをとりまく幼なじみたちに、恋の季節がやってきました。
 「ふとっちょ」のボタックの妹は炭屋の「白馬王子」が好き。白馬王子はこの界隈では金持ちと言われている馬家の娘が好き。馬家の娘はボタックが大好き。そしてボタックは闘魚に恋心を言い出せないまま。馬家の息子も闘魚を女性として意識するようになって、恋のもつれはアイスカチャンの甘い味ではほどけず、こんがらかっていきます。

 父に会いにペナン島へ渡り、父には新しい妻と子供がいることを知る打架魚。それぞれに「子供時代を終える日」がやってきます。
 クアラルンプールへ行き、勉強したいという打架魚。コーヒーを入れる腕を生かして自分の店を出す夢を実現させようとする兄。そしてボタックは、、、

 アイスカチャンのような少年の日の恋は、はかなく溶けて消えていくのか、、、、、、、、、

 何度も画面に登場するアイスカチャン。さまざまな果物などが」トッピングされていて、めっちゃ甘そうな味が画面からも味わえそうです。
  今期のクラスにいるマレーシア留学生にアイスカチャンが好きかとたずねたら、せつなそうな顔。ケータイを取り出してアイスカチャンの写真を見せてくれました。故郷の味が恋しいのかと思ったら、7月はラマダンの真っ最中。マレー系のイスラム教徒は、アイスカチャンどころか、昼間は水も飲んではいけない断食月です。昼間はケータイの画像をながめて、日没後の「食べてもいい時間」まで耐えるのだそうです。

 シンガポールかマレーシアへ行ったら、ぜひ食べてみたいアイスカチャン。少女の日のはかない恋の味が思い出せるといいんだけれど。

 ボタックは都会へ出てゆくアンチーに、アイスカチャンをプレゼントします。恋心はついに言い出せないまま、、、、
  

<おわり>
コメント (2)
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