2013/09/15
ぽかぽか春庭ダンス・ダンス・ダンス>踊る阿呆に見る阿呆(3)マイヨーのLac
『ジゼル』は『白鳥の湖』と並ぶ古典中の古典バレエで、ロシアのマリウス・プティパによる振り付け構成校生演出が、継承されて上演されています。8月に清里のフィールドバレエで見たバレエシャンブルによる『ジゼル』もプティパ版でした。こうした古典は確固としたイメージを作り上げているので、新しい振り付けをするのは振付家にとって意欲もわくでしょうが、失敗の可能性も大きく、挑戦のしがいがあることだろうと思います。マシューボーンの『白鳥の湖』は、白鳥が姫ではなく男という大胆な変更で大成功を収めました。
3月に録画したのに、春休み中に見る時間がとれず、夏休みになってようやく見ることができたバレエの録画(NHK2013/3/18)。ロンドンロイヤルバレエ団が上演したアシュトン作品集と、モンテカルロ・バレエ公演 ジャン・クリストフ・マイヨーの 「LAC(白鳥の湖)」
どちらもたいへん印象的なバレエでした。
フランス語のLacとは、英語のLakeすなわち「湖」のこと。バレエ『LAC』は、モナコ公国モンテカルロバレエ団を率いるジャン・クリストフ・マイヨーがチャイコフスキー作曲『白鳥の湖』の新演出新振り付けに挑戦した作品です。斬新で見事な現代の作品に仕上がっていました。
Lacの主役は白鳥オデットではなく、黒鳥オディールでもありません。古典の『白鳥の湖』だとロッドバルトと呼ばれている悪魔。可憐なオデットに呪いをかけ、白鳥の姿にしてしまう魔法使いなのです。
Lacの主役、夜の女王をバレエ団のトッププリマであるベルニス・コピエテルスが演じます。白鳥=アニヤ・ベーレント、黒鳥=エープリル・バール、王子=ステファン・ボルゴン、王子の腹心=イェルン・フェアブルッヘン、国王=アルバト・プリエト、王妃=小池ミモザ
一番左が小池ミモザ

マシューボーンの白鳥の湖と異なり、登場人物の設定は古典のとおりなのですが、主役が夜の女王であること、王と女王が重要なダンサーであること(古典版では王と女王はパントマイムをするだけで普通は踊らない)、古典版ではオデットとともに白鳥の姿に変えられた侍女たちがコールドバレエ(群舞)をつとめますが、マイヨー版では鳥たちは白鳥ではなく、灰色の羽の衣装です。夜の女王に完全に支配されていてオデットをいじめたりします。四羽の小さな白鳥の踊りも三羽の白鳥の踊りもなし。
古典版では王と女王は王子の花嫁探しに一生懸命なだけで、キャラがたつ役ではないのですが、マイヨー版では、王は宮廷の侍女や王子の花嫁候補にちょっかいを出したり、夜の女王の色香によろめいたりする際立ったキャラ。スキンヘッドのアルバト・プリエトが権威もありながら人間的な王を演じていてとてもよかったです。女王は王子を愛していますが、王子の花嫁はことごとく気に入らず、夜の女王が花嫁候補に押し付けてくるオディールに王子が心動かされたりすると、激しく嫉妬する複雑な役どころ。日本人ダンサーの小池ミモザが見事に演じていました。
王子は、第1幕では遊び好きであまり深刻に物事を考えない軽いキャラです。夜の女王にオディールを紹介されるとたちまちウキウキしてしまう。しかし、夜の湖でオデットに出会い、少しはものを考える大人になっていきます。しかし、第3幕の仮面舞踏会で夜の女王に騙され、オデットに化けたオディールに愛を誓ってしまいます。オディールは途中で白鳥の羽が黒い羽混じりに変わる演出。黒鳥の見せ場である32回転のグランフェッテもなし。
王子と灰色の鳥のコールド

第4幕にも王と女王が出てきて踊ります。最後、王子はオデットとの愛を貫き、死をもって夜の女王に対抗します。
クラシックとモダンバレエ、コンテンポラリーダンスの技法で振りつけられていますが、ダンサーたちの見事な演舞で振り付けが生きていました。
クラシックでは気にならなかったことが、マイヨー版で気になりました。なぜ夜の女王はこれほどまでに王室に娘を押し込もうとし、王と女王をコケにしたかったのか。前に王室によって何かひどいことでもされたことの復讐なのか、ということ。
舞台中継ではなく、最初から映像作品として撮影されているビデオで、バレエの前に昔の白黒映画風の映像がありました。幼い王子がオデットと仲良くなると、夜の女王が自分の娘を王子と仲良しにさせようとしてオデットを排除しようとする、という映画なのです。この映画部分を含めても、夜の女王が娘を王室にいれて王室を乗っ取ろうとするのはなぜなのかわかりませんでした。
古典バレエでは、なぜロットバルトがオデットや侍女たちを白鳥に変えたのか、なんてことはまったく気にならなかったのに。主役が夜の女王だから気になってしまいました。
ロンドンロイヤルバレエ団のアシュトン振り付け作品の上演。「アシュトンセレブレーション」
「ラ・ヴァルス」「モノトーンズⅠ&Ⅱ」などに日本人ダンサーが起用されていて、小林ひかる、平野亮一、高田茜、それぞれ美しいプロポーションで表現力もあり、活躍しているようす、うれしかったです。
1949年木下惠介作品『お嬢さんに乾杯』で、主人公がお嬢さんといっしょにバレエを見るシーンがあるのですが、出演している貝谷八百子バレー団のダンサーたち、揃いもそろっておでんにもふろふきにもよさそうな大根足なのです。これが1949年の日本人女性の体型なのだと感慨深く映画を見ました。
それから60年。よいバレエダンサーの条件とは足の長さだけではありませんけれど、モンテカルロの小池ミモザもロンドンロイヤルの日本人ダンサーたちも、「足、長っ」と思いましたもん。
<つづく>
ぽかぽか春庭ダンス・ダンス・ダンス>踊る阿呆に見る阿呆(3)マイヨーのLac
『ジゼル』は『白鳥の湖』と並ぶ古典中の古典バレエで、ロシアのマリウス・プティパによる振り付け構成校生演出が、継承されて上演されています。8月に清里のフィールドバレエで見たバレエシャンブルによる『ジゼル』もプティパ版でした。こうした古典は確固としたイメージを作り上げているので、新しい振り付けをするのは振付家にとって意欲もわくでしょうが、失敗の可能性も大きく、挑戦のしがいがあることだろうと思います。マシューボーンの『白鳥の湖』は、白鳥が姫ではなく男という大胆な変更で大成功を収めました。
3月に録画したのに、春休み中に見る時間がとれず、夏休みになってようやく見ることができたバレエの録画(NHK2013/3/18)。ロンドンロイヤルバレエ団が上演したアシュトン作品集と、モンテカルロ・バレエ公演 ジャン・クリストフ・マイヨーの 「LAC(白鳥の湖)」
どちらもたいへん印象的なバレエでした。
フランス語のLacとは、英語のLakeすなわち「湖」のこと。バレエ『LAC』は、モナコ公国モンテカルロバレエ団を率いるジャン・クリストフ・マイヨーがチャイコフスキー作曲『白鳥の湖』の新演出新振り付けに挑戦した作品です。斬新で見事な現代の作品に仕上がっていました。
Lacの主役は白鳥オデットではなく、黒鳥オディールでもありません。古典の『白鳥の湖』だとロッドバルトと呼ばれている悪魔。可憐なオデットに呪いをかけ、白鳥の姿にしてしまう魔法使いなのです。
Lacの主役、夜の女王をバレエ団のトッププリマであるベルニス・コピエテルスが演じます。白鳥=アニヤ・ベーレント、黒鳥=エープリル・バール、王子=ステファン・ボルゴン、王子の腹心=イェルン・フェアブルッヘン、国王=アルバト・プリエト、王妃=小池ミモザ
一番左が小池ミモザ

マシューボーンの白鳥の湖と異なり、登場人物の設定は古典のとおりなのですが、主役が夜の女王であること、王と女王が重要なダンサーであること(古典版では王と女王はパントマイムをするだけで普通は踊らない)、古典版ではオデットとともに白鳥の姿に変えられた侍女たちがコールドバレエ(群舞)をつとめますが、マイヨー版では鳥たちは白鳥ではなく、灰色の羽の衣装です。夜の女王に完全に支配されていてオデットをいじめたりします。四羽の小さな白鳥の踊りも三羽の白鳥の踊りもなし。
古典版では王と女王は王子の花嫁探しに一生懸命なだけで、キャラがたつ役ではないのですが、マイヨー版では、王は宮廷の侍女や王子の花嫁候補にちょっかいを出したり、夜の女王の色香によろめいたりする際立ったキャラ。スキンヘッドのアルバト・プリエトが権威もありながら人間的な王を演じていてとてもよかったです。女王は王子を愛していますが、王子の花嫁はことごとく気に入らず、夜の女王が花嫁候補に押し付けてくるオディールに王子が心動かされたりすると、激しく嫉妬する複雑な役どころ。日本人ダンサーの小池ミモザが見事に演じていました。
王子は、第1幕では遊び好きであまり深刻に物事を考えない軽いキャラです。夜の女王にオディールを紹介されるとたちまちウキウキしてしまう。しかし、夜の湖でオデットに出会い、少しはものを考える大人になっていきます。しかし、第3幕の仮面舞踏会で夜の女王に騙され、オデットに化けたオディールに愛を誓ってしまいます。オディールは途中で白鳥の羽が黒い羽混じりに変わる演出。黒鳥の見せ場である32回転のグランフェッテもなし。
王子と灰色の鳥のコールド

第4幕にも王と女王が出てきて踊ります。最後、王子はオデットとの愛を貫き、死をもって夜の女王に対抗します。
クラシックとモダンバレエ、コンテンポラリーダンスの技法で振りつけられていますが、ダンサーたちの見事な演舞で振り付けが生きていました。
クラシックでは気にならなかったことが、マイヨー版で気になりました。なぜ夜の女王はこれほどまでに王室に娘を押し込もうとし、王と女王をコケにしたかったのか。前に王室によって何かひどいことでもされたことの復讐なのか、ということ。
舞台中継ではなく、最初から映像作品として撮影されているビデオで、バレエの前に昔の白黒映画風の映像がありました。幼い王子がオデットと仲良くなると、夜の女王が自分の娘を王子と仲良しにさせようとしてオデットを排除しようとする、という映画なのです。この映画部分を含めても、夜の女王が娘を王室にいれて王室を乗っ取ろうとするのはなぜなのかわかりませんでした。
古典バレエでは、なぜロットバルトがオデットや侍女たちを白鳥に変えたのか、なんてことはまったく気にならなかったのに。主役が夜の女王だから気になってしまいました。
ロンドンロイヤルバレエ団のアシュトン振り付け作品の上演。「アシュトンセレブレーション」
「ラ・ヴァルス」「モノトーンズⅠ&Ⅱ」などに日本人ダンサーが起用されていて、小林ひかる、平野亮一、高田茜、それぞれ美しいプロポーションで表現力もあり、活躍しているようす、うれしかったです。
1949年木下惠介作品『お嬢さんに乾杯』で、主人公がお嬢さんといっしょにバレエを見るシーンがあるのですが、出演している貝谷八百子バレー団のダンサーたち、揃いもそろっておでんにもふろふきにもよさそうな大根足なのです。これが1949年の日本人女性の体型なのだと感慨深く映画を見ました。
それから60年。よいバレエダンサーの条件とは足の長さだけではありませんけれど、モンテカルロの小池ミモザもロンドンロイヤルの日本人ダンサーたちも、「足、長っ」と思いましたもん。
<つづく>