異様に太ったクリスチャン・ベイルが、禿げ上がった髪をなんとかする描写からスタート。こないだは異様に痩せた役をやってたはずなのに、メソッド演技の鬼はここまで体型を変えてくるか……そんな体重増減の先輩もあとから登場するのでお楽しみに。
バックにはアメリカの「名前のない馬」が流れ、貧しい生まれからのしあがった詐欺師の過去がつづられる。これは1970年代のお話なのです。とくればわたしの出番だっ!
他にもスティーリー・ダン、ビージーズ、エルトン・ジョン、デビッド・ボウイ、ELOが使用され、特にディスコで流れるドナ・サマーのI Feel Loveは女子トイレでのラブシーンにぴったりだし、ビッチな妻役のジェニファー・ローレンスがキッチンで踊りまくる「死ぬのは奴らだ」(ウイングス)は、作品のテーマともからんでいる。
これはもう、どう考えても同世代のヤツがからんでいるなと思ったら監督のデビッド・O・ラッセルは一学年上なだけでした。さもありなん。
詐欺師のコンビがFBIと組んで汚職政治家を摘発する……ときけばこれも70年代の名画「スティング」を連想する。観客をだます手口も実はいっしょだし。
しかし決定的に違っているのは、ポール・ニューマンやロバート・レッドフォードのようには主人公たちが自分に自信をもてないでいることだ。
自分はリアルではない、自分と愛人の関係もリアルではない、自分の商売もリアルではない(絵の贋作を売りつけることもやっているのが象徴的)という思いが、観客と同時に、自分自身をも欺いている主人公の哀しみに通じている。予想とは違い、わりに陰鬱な映画でもあります。
クリスチャン・ベイル、エイミー・アダムス(そりゃあもう盛大に脱いでくれます)、ブラッドリー・クーパー、ジェレミー・レナー、ジェニファー・ローレンス……この5人をそろえただけでもすごいのに、驚きの特別出演がふたりも!この監督は、俳優たちに信頼されているんだなあ。見逃していた「世界にひとつのプレイブック」もさっそく見てみよう。
さあ、アカデミー賞の演技賞全部門にノミネートされたこの映画、はたして何人がオスカーをゲットできるのかな。