ルーミスシジミ Arhopala ganesa loomisi (H. Pryer, 1886)は、シジミチョウ科のチョウで、過去に2度、千葉県大多喜町で撮影しているが、今年は、千葉県鴨川市の生息地を訪れた。
ルーミスシジミは、国外では台湾(山地)・中国西部・ヒマラヤ地方に、国内では千葉県の房総半島南部を北東限として紀伊半島・中国・四国・九州・隠岐・屋久島に、局地的に分布しているが、環境省のRDBに絶滅危惧Ⅱ類として記載されている絶滅危惧種である。
生息環境は、イチイガシ、ウラジロガシを含むシイ、タブ、カシ類の高木が生い茂る自然度の高い照葉樹林帯で、林床には低木が茂り、高湿で薄暗く所々こもれ日が当たるような林内環境だが、周囲の開発や開墾により照葉樹林の孤立化や破壊が進んだこと、台風等による自然災害の影響によって樹林に大きな被害が発生したこと、更にはマニアによる乱獲によって生息個体数が減少しており、絶滅が危惧されている。
千葉県の房総半島では、年間の平均気温が15.8℃で年間を通じて気温差が少ない亜熱帯気候のため、山間部では自然度の高い照葉樹林が形成されており、イチイガシ等のカシ類が生い茂る君津市、鴨川市、夷隅郡の一部に生息している。
さて、29日の朝の気温5℃(国立市)快晴。自宅を6時に出発して鴨川市のルーミスシジミ生息地に向かった。現地に9時着。車を止めて、早速、生息ポイントに向かう。カメラをセットし、ギャップ(樹林の中にぽっかりと空いた空間)で待機。林道沿いよりも風がなく、差し込む日差しが暖かい。しばらくすると、1頭のルーミスシジミのオスが降りてきてくれた。気温はおそらく10℃前後だったろう。暑過ぎず、寒過ぎず。絶好のルーミス日和だったかも知れない。
ルーミスシジミの翅は、暗褐色の表面中央に明るいスカイブルー(俗にルーミス・ブルー)の紋があり、その紋は、メスの方が大きく、オスは小さい。また、オスの方が全体的に小さい。その後、メスも降りてきて、採集者にまったく邪魔されることなく存分に撮影することができた。
今回、狭い範囲において、少なくとも5~6頭のルーミスシジミを確認したが、オスは1頭で、後はすべてメスであった。
午前10時を過ぎ、気温が高くなってくると、ルーミスシジミは、イチイガシの樹幹辺りをチラチラと飛んで下には降りてこなくなった。そろそろ帰ろうとした時、1頭のルーミスシジミが迷走した後、何と、私のあごに止まった。手でそっと触ると飛び立ち、地面に降りたので最後のショットを撮って終了した。
ルーミスシジミの生態
11月下旬でありながら、今回、撮影したルーミスシジミの多くは翅がほとんど擦れていない個体であった。この事は、秋にルーミスシジミを撮影している多くの愛好家によっても目撃され、中には羽化したばかりのような美しい個体も存在している。初夏に羽化した成虫が、この時期においても、美しい翅のままで存在しているのだろうか?
ルーミスシジミは、食樹であるイチイガシ等のカシ類の新芽鱗片の内側に1個ないし2個産卵し、孵化した幼虫は、
新芽と若葉を摂食する。同じカシ類であるウラジロガシを摂食するヒサマツミドリシジミの場合は、秋にウラジロガシの冬芽に産卵し、翌春に孵化した幼虫は新芽と若葉を摂食する。そして5月末から6月中頃には羽化し、メスは夏眠した後、秋に産卵する。この時のメスの翅はかなり傷んでいることは、本年、実際に観察し撮影している。
(「ヒサマツミドリシジミ(メスの吸水行動) 」)
では、ルーミスシジミが、11月下旬でも翅が擦れていないのは、何故なのか。
ルーミスシジミの詳しい生態は、未だ完全には解明されておらず、特に成虫の発生回数や時期については諸説ある。以前は、初夏に1回の発生と言われていたが、6月中~下旬に第1世代、さらに8月に第2世代、9月に第3世代が発生する(川副・今立, 1956)という説や年2回という説があるが、11月下旬の翅の痛み具合から考えると、少なくとも年に複数回の発生であることは間違いないように思う。
実は、イチイガシ等のカシ類を含む常緑樹は、春だけではなく夏の土用(7月下旬から8月上旬)の頃に二次的に伸長する芽(土用芽)があり、この新芽を摂食すると考えれば、初夏に羽化した第1世代は土用芽に産卵し、それを摂食した幼虫は、夏から秋に羽化することになる。この世代は、そのまま越冬し、翌年の春に産卵するというサイクルならば、疑問は解ける。今回、翅の擦れている個体が少なかったのは、この地が8月にマニアによって採集ツアーが組まれ乱獲される場所であるため、それ以降に羽化した個体が生息していたと思われる。
参考文献
- 川副昭人・今立源太良,1956. ルーミスシジミの生活史. 奈良県,史跡名勝天然記念物調査抄報, (9):1-18, pls.17-19.
- 木下隆方,1988. 清澄山周辺のルーミスシジミ. 日本の生物, 2(12):48-51. 文一総合出版, 東京.
- 仁平 勲,1980. 房総半島のルーミスシジミ. 月刊むし, (114):3 -16. むし社, 東京.
このルーミスシジミの撮影をもって、今年計画した昆虫撮影は、全て終了となった。年末に「今年の自己ベスト(昆虫編)」としてまとめたいと思う。
お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。
ルーミスシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 3200(2015.11.29)
ルーミスシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F10 1/320秒 ISO 2500(2015.11.29)
ルーミスシジミ(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +1EV(2015.11.29)
ルーミスシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640(2015.11.29)
ルーミスシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F10 1/250秒 ISO 640(2015.11.29)
ルーミスシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F10 1/320秒 ISO 640(2015.11.29)
ルーミスシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F10 1/320秒 ISO 500(2015.11.29)
ルーミスシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F10 1/250秒 ISO 400(2015.11.29)
ルーミスシジミ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F10 1/320秒 ISO 1000(2015.11.29)
東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
あのときは大変お世話になりました。
おかげで初めてこの蝶を観察・撮影することができて大満足です。
ありがとうございました。
最後に、地面に降りてきてくれて良かったですね。
翅裏も翅表も十分に撮影できたのではないでしょうか。
採集者に乱獲されないよう、生息地は大切にしていきたいですね。
ルーミスシジミは、体を温める開翅でも、前脚2本を上げている。
シジミチョウは、「開翅=前脚2本上げ」が
基本なのだろうか?
どちらで、ご覧になったかは分かりませんが、
ルーミスシジミは、産地では、多く生息している所もありますが、
全国的にみれば絶滅が危惧されているチョウで、
生息地はかなり限定されています。
翅を開いた色合いでは、ムラサキシジミと同じように見えますので、
翅の裏側の模様をよく確認してみてください。
もし、ルーミスシジミならば、素晴らしい場所だと思います。
ルーミスは羽化してしばらく経った個体でも他の蝶より汚損が少ないですが、新鮮個体を知っていれば擦れ具合が見て取れます。どう見ても新鮮でないことは、撮られたお写真からわかってしまいます。
生息環境が山深い原生林であることから、大量に採集できるような条件の良いときであっても、全体の発生数からすれば微々たるもの。8月の採集ツアーで採られたから擦れた個体が少なかったなんて、蝶を知ってる人に言ったら鼻で笑われてしまうか、裏でこっそり馬鹿にされてしまうので、他所で言わない方がいいでしょう。色々なブログを見ていると、なんで撮影する人は独りよがりな方が多いのかと不思議だったのですが、そもそもブログやってる方にそういう人が多いんでしょうね。
「すくなくとも房総半島のルーミスは年一化の可能性が極めて高いと言われています。」新たな知見を得ることができました。ありがとうございます。
私は、ホタルが専門でチョウの研究者ではないので、単なる憶測で書いています。
チョウの専門家の方々から馬鹿にされたり、笑われてしまうかも知れませんが、採集圧に関して主張を曲げる気はございません。
ご意見は頂戴致しますが、誹謗中傷にはお気をつけください。