三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「来る」

2018年12月11日 | 映画・舞台・コンサート

 映画「来る」を観た。
 http://kuru-movie.jp/

 青木崇高の演じる民俗学者にこの作品のヒントがある。民俗学というのは有名な柳田国男や折口信夫が研究したことで知られている、各地に伝わる物語や風習にまつわる考証である。
 予告編が表現していたとおり、出身地の言い伝えが大人になってもずっとついて回り、いつしかエネルギーを蓄えて強大な邪悪さになっている。そこに人間関係の歪みが加わって、物語は立体的に広がっていく。
 岡田准一に依頼する様子といい、松たか子の登場のタイミングといい、十分に考えられた構成で、自然で無理がない。だから怖さもストレートに伝わってくるし、スクリーンから目が離せなくなる。
 どこか「リング」に通じるような日本的な、因習というか、多くの日本人の心に共通するような郷愁みたいなものと一緒になって存在する恐怖がある。思い出と恐怖が一体で切り離せないのだ。柴田理恵らの怪演もあって、現実離れしているのに本当にありそうという、絶妙なホラー映画になっている。
 数日前に海外のホラー「ヘレディタリー 継承」を観てがっかりしたので、この作品によってホラー映画の評価が少し持ち直した感じである。海外の人に理解されるかは別にして、なかなかに面白い作品であった。


芝居「命売ります」

2018年12月11日 | 映画・舞台・コンサート

 サンシャイン劇場で舞台「命売ります」を観た。
 http://www.parco-play.com/s/program/inochi/

 三島由紀夫原作の「命売ります」を芝居にしたもので、原作に忠実に再現されていた。最初にセリフを喋るのが温水洋一で、いつもバラエティで見かけるそこら辺にいるおじさんとは打って変わって、饒舌で頭のいいいくつかの役を掛け持ちして大活躍だった。小柄で禿げていても、存在感があるから十分に舞台映えがする。
 命売りますという商売を始めた27歳の偉丈夫の男性が、やってくる様々な客の要求に応えながら、時代というものが形作られる真実に迫っていく。演出は全体にエロティックで、いかにも三島らしい表現がいたるところに見られる芝居であった。


映画「ヘレディタリー 継承」

2018年12月11日 | 映画・舞台・コンサート

 映画「ヘレディタリー 継承」を観た。
 http://hereditary-movie.jp/

 ホラー映画は舞台や設定、登場人物は違っていても、プロットが大体同じである。即ち、最初は得体の知れない何かが迫ってきたり追いかけてきたり、脇役の誰かが殺されたりしながら、徐々に種明かしがされて正体が明らかになるというパターンだ。そして大抵の場合、原因となるのが主要な登場人物の過剰な思い込みであったり、極度の怒りであったりする。怒りが憎悪を生み、憎悪が怪奇現象となって襲いかかるパターンである。
 本作品も前半は例外ではなく、得体の知れない何かが家族を襲うのであるが、原因は主要登場人物の精神異常ではなかった。母親の精神がやや普通でない部分はあったが、異常というほどでもなく、不幸の真の原因はタイトルの通りであった。
 祖先が恐るべき力を持っていたという描写も何もなく、継承が超常現象の原因でしたというのがあまりにも唐突で、ラストシーンではもはや笑うしかなかった。これほど不出来なホラーは初めてである。
 ワンパターンでもいいから、登場人物の誰かの怒りや憎悪、隠された過去などの描写があって、その結果としての超常現象でしたというふうに落ちをつけてくれたほうがまだマシだったと思う。


映画「ハード・コア」

2018年12月11日 | 映画・舞台・コンサート

 映画「ハード・コア」を観た。
 http://hardcore-movie.jp/

 チープな印象のスラップスティックではあるが、ストーリーはよく練られている上に俳優陣の怪演も手伝って、とびきり面白い映画になった。
 見た目とは裏腹のハイテクロボットだが、ロボット憲章を遵守するという基本は守られている。そしてそこにこの作品の世界観がある。人間はみずからの食欲と性欲に振り回されて、非合理的で理不尽で無駄な行動をするが、それでも人としての尊厳は守られなければならない。
 思想や信条の違いはもとより、貧富も善悪もひっくるめてすべての人間を肯定する力強さに、底知れぬ哄笑が沸き起こるようなエネルギーを感じる。ルネッサンス期みたいな作品である。
 設定の細かい部分には謎が多く、全部は説明してくれないまま、いくつかは謎のままで終わる。いろいろな点で心残りではある。蛇足になるのを恐れずに続編を観たい気がする。