三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「タネは誰のもの」

2020年11月16日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「タネは誰のもの」を観た。
 昨年(2019年)の7月に鑑賞したドキュメンタリー映画「SEED〜生命の糧」では、モンサント(現バイエル)のような巨大多国籍企業が農民から種を奪った経緯が描かれていた。強力な除草剤を開発、販売し、その除草剤に耐性を持つGMO(遺伝子組換植物)を開発して特許を取る。GMOは知的財産として保護される。ということは農家の自家増殖が禁止になるということだ。既にインドでは禁止になっていて、農家は毎年モンサントのような巨大多国籍企業から種子を買うしかない。その際にモンサント社製の肥料と農薬もセットになっている。貧しいインドの農家は借金をして買うが、自然に左右される作況のために借金が返せない場合もある。インドでは毎年15,000人の農家が自殺している。そういう作品だった。
 日本ではどうなっているのかをわかりやすく伝えるのが本作品である。2018年の種子法の廃止と2020年の今年まもなく採決される種苗法の改正に対するアンチテーゼが主体で、日本の農作物の安全性と安定供給が脅かされていることについて、元農林水産大臣の山田正彦さんが中心になって解説している。簡単に言えば、安倍政権からスガ政権へ続く自民党は、日本国民の健康をアメリカに売り渡しているということである。
 上映後には山田さん本人が登壇して、来る11月17日の種苗法改正法の成立に向けて全力で反対行動をするとのこと。御歳78歳の山田さんに座り込みは堪えるだろう。
 仕事や用事を抱える我々には座り込みは出来ないが、次の選挙に向けて、国民の健康を脅かす化学薬品まみれの農作物やGMOを排除する政治家に投票することは出来る。誰に投票するか迷った場合は、この基準で判断すればいい。問題なのは、こういう大きな問題をテレビや新聞が報道しないことだ。
 確かに知らなければ反対もできないが、少しでも関心を持てばインターネットその他ですぐに調べることが出来る。知ろうとしない国民に支えられ、スガ内閣の支持率は57%と高水準で推移している。日本国民は、子供がアトピーになったり奇形になったりしても構わないという政治家に未来を委ねたいのだろう。国民は自分たちのレベルに合った政治家しか持てないという原則は未だに真実であり続けるのだ。

映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」

2020年11月16日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」を観た。
 安楽死や尊厳死についての議論は脳死と心臓死の議論と合わせて、人格とは何か、死とは何かという形而上的ないし医学的な議論になり、結着をつけるのは難しい。
 周防正行監督の「終の信託」では安楽死に関わった医師の法的責任が追及される。大沢たかおの冷酷非道な検事ぶりが印象的な作品で、人間の生死に関わる哲学的な問題と倫理に国家権力が介入する不条理を描く。安楽死の問題を考えるときに必ず思い出す名作だ。
 本作品では安楽死を殺人と決めつける刑事が主人公で、綾野剛は短絡的で思慮の浅い筋肉バカの刑事を上手に演じていたが、映画「楽園」や「影裏」の主人公みたいな、複雑な人間性を演じるのが得意な俳優さんにしては、少し物足りない役柄だった気がする。世界観も周防監督の作品よりも大分こじんまりとしていた。
 見どころは木村佳乃の怪演とパンツスーツの北川景子の後ろ姿である。木村佳乃はあまり主演作はないのだが、脇役としてとてもインパクトのある演技をする。本作品ではこの人が最も印象に残った。安楽死についての考え方をもう少しまともに表現する場面があれば、本作品の世界観ももう少し広がった筈だが、少し残念である。北川景子は今回は熱血漢の女刑事。私生活ではクックパッドのレシピ通りに料理を作るとのことで、演技もレシピ通りみたいな気がする。どんな役もそれなりにこなす器用な女優さんではあるが、いつか代表作みたいな作品に出逢えればもう一皮剥けるかもしれない。