映画「エイブのキッチンストーリー」を観た。
予告編を観て、料理の才能のある天才少年が活躍するほのぼのとした映画だろうと思っていただけに、十二歳の主人公エイブの家族たちのいかれた精神性に驚いた。ドナルド・トランプに投票するのはこういう人たちなんだろうなと思った。英語で言えば、The Stupid in America だ。
祖父母は揃って不寛容なナショナリストで、母親は息子に信仰を強制する狂信者、父親は息子に無宗教を強制する独善主義、そして全員が無教養な愚か者ときては、主人公エイブに救われる道はない。
アメリカの馬鹿な人々を笑い飛ばすブラックコメディなのかと思って観ていたが、最後は集まって笑うという整合性のなさと、恥知らずなご都合主義に思わず仰け反ってしまった。リアリティの欠片もない。
これほど破綻していて不愉快な映画も珍しい。役者陣がそれぞれに愚かな人間を上手に演じていただけに、折角できたお膳立てをひっくり返すことなく、そのまま不幸でどうしようもない結末にしてほしかった。本作品では製作者も登場人物の家族たち並みに愚かであることを公に晒しているようなものである。音楽もひどかった。
エイブ役の少年がなまじ好演していただけに、実に残念である。こういう作品を作ろうという世界観が、ドナルド・トランプに投票した人たちの精神性に直結している気がした。