世田谷パブリックシアターでこまつ座第139回公演「雨」を観劇。
主演はテレビドラマ「相棒」の「ヒマか?」でおなじみの角田課長を演じている山西惇さん。ヒロインの紅花問屋の一人娘おたかを演じるのは倉科カナさん。
主人公は鉄屑拾いの乞食「トク」である。鉄屑拾いの乞食に拾われて、自分も鉄屑拾いになる。特に五寸釘には敏感に反応して声を上げて拾うのが癖だ。
ある日、日頃見かけぬ子供人形の年老いた物乞いから、あんたは奥州岩手は平畠の紅花問屋紅屋の若主人喜左衛門にそっくりだと何度も言われる。話によると喜左衛門は半年ほど前に失踪。物乞いはあんたこそ喜左衛門様だと主張して譲らない。否定するトクだが、物乞いの話に出てきた美人との誉れ高いおたかを一度見てみたいと、助平心をおこして江戸から岩手まではるばる出かけていくと、トクを見かけた茶屋の婆が紅屋に連絡。紅屋の使いが迎えに来る。平畠の言葉を喋れないトクに、使いは、天狗にさらわれて頭がおかしくなったんでしょうと助け舟を入れる。これ幸いと、トクは喜左衛門になりすますことにした。
初めて見たおたかの美しさに圧倒されたトクだが、その晩に久しぶりのセックスとなって、おたかにちんぽを見られると、喜左衛門のよりずっと大きい上に、鈴口のとなりにイボがふたつあると、明らかに喜左衛門ではないことに気づかれる。しかし何故か抵抗しないおたかを押し倒し、トクは三日三晩、おたかとのセックスに明け暮れる。
文字通り情を交わしたトクとおたか。おたかはトクを本物の喜左衛門扱いし、トクは一日も早く喜左衛門になりきるために平畠弁を習得し、つい鉄屑を拾ってしまう癖を直す。喜左衛門は紅花の栽培に秀でていて、百姓たちは喜左衛門を頼りにしている。トクは紅花栽培の習得にも精を出す。
うまくいきそうなときに現れたのが江戸のオカマのカマ六。トクはカマ六と一発やったことがあり、そのときにちんぽのイボを知られている。それをタネにカマ六はトクを脅すのだが、トクは隙を見てカマ六を殺してしまう。同じく江戸から来た芸者花虫にも偽物であることを見破られて、こちらも殺してしまう。花虫は本物の喜左衛門と通じていて、居場所を悟ったトクは喜左衛門に毒を盛る。
これで偽物と証明する人間はひとりもいなくなった。晴れて喜左衛門としておたかと一緒に幸せに暮らせると思ったら、ここからどんでん返しが始まる。
実はトクに張り付いている使いの者がいて、喜左衛門に毒を持った直後に使いの者が毒を吐かせている。喜左衛門は失踪したのではなく、紅屋も藩も承知の上で隠れていたのだ。喜左衛門は半年前に公儀の死者を殺してしまい、幕府から切腹を申し付けられていた。喜左衛門の紅花栽培の知識やアイデアなしでは平畠はやっていけないと、藩と紅屋が結託して喜左衛門を失踪したことにする。どこかでカタをつけなければならないから、喜左衛門にそっくりの人間を探していて、江戸で見つけたのがトクだった。
トクの女好きを利用して平畠まで誘導し、トクが喜左衛門ではないことを証明できる人間たちを殺すのを見届け、白装束を着せて白洲へ連れて行く。トクを喜左衛門として切腹を命ずる藩の重鎮たち。見届けるおたか。トクはことここに至っては致し方なく、自分は喜左衛門ではなく拾い屋のトク、乞食のトクであると主張するが、それを証明する人間を自ら殺してしまったことに気づく。
切腹できないトクは殺されて仰向けに倒され、短刀を腹に刺され、その短刀を自らの手に握って切腹した格好にされる。トクと何度も何度も情を交わしたおたかは、計画どおりとは言えトクの死を素直に喜べない複雑な表情と仕種をする。鈴口のとなりにふたつのイボがあるトクのちんぽが忘れられないのだろうか。おたかの膝の上に頭を置いて死んだトクは、もしかすると一生分の幸せを味わったのかもしれない。
実に深くていい芝居だった。トク役の山西惇さんは、10年前に市川亀治郎(当時)がトクを演じたときはカマ六の役だった。