三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画『ムクウェゲ「女性にとって世界で最悪の場所」で闘う医師』

2022年03月07日 | 映画・舞台・コンサート
 映画『ムクウェゲ「女性にとって世界で最悪の場所」で闘う医師』を観た。

 シネマカリテでの上映後に、立山芽衣子監督の舞台挨拶があった。なかなか正直な監督で、映画の中でこれを訴えようという方向性が決まらないままに、本作品を完成させてしまったと言う。問題を提起して、あとは観客の問題意識に任せる訳だが、それは決して無責任な姿勢ではない。
 それは作品中でムクウェゲ医師が言う「世界はすべて繋がっている」という世界観と同じで、一点だけを主張しても解決にはならないことを示唆していると思う。ムクウェゲ医師を描くことで自然に提起される多くの問題は、互いに繋がっている。どの問題がいちばん重要とは言えないのだ。
 そこで本作品の中で目立った言葉や問題を、当方なりに箇条書きにしてみることにした。ちなみにコンゴはコンゴ民主共和国とコンゴ共和国があり、本作品のコンゴはコンゴ民主共和国の方である。

(監督の言葉)
コンゴは自然が豊かで美しい国だ。人口も多い。平和以外はすべてあると言われている。

(ムクウェゲ医師の言葉)
出産で亡くなる女性を助けるために病院を設立した。しかしやってくるのはレイプの被害者ばかりだった。

私は生後半年から90歳超までのレイプされた女性を治療した。

レイプで生まれた女性が、再びレイプされる。

私が病院を離れたとき、病院に戻ってきてほしいと、毎日1ドルで暮らす女性が50ドルを帰国費用に用意してくれた。

女性たちに比べれば私は小さな存在だ。

広島の原爆には、コンゴで採掘されたウランが使われた。コンゴと日本には深い繋がりがある。

コンゴのレアメタルがスマホなどの電子機器に使われている。世界は繋がっている。コンゴの問題は世界の問題である。

政府は武装してレアメタルを奪い、女性をレイプする者たちを取り締まらない。

政府はレアメタルの採掘は完全に管理されているというが、それは嘘である。

コンゴに必要なのは平和である。

(子供の頃にレイプされ、いまは看護師を目指している21歳の女性)
8歳のときに武装勢力に襲われた。ナタで頭を割られて脳が飛び出した母親の血の海に、首を切られた父親が倒れ込んだ。

森の中を5年間連れ回されて、のべつ幕なしにレイプされた。

妊娠したらその腹を刺されて胎児は死んだ。胎児が腐り、死にそうになっているところを助けられ、病院で13回も手術を受けた。ムクウェゲ医師にはとても感謝している。

(当方の感想)
ムクウェゲ医師はフランス語を話している。

武装勢力とは、ルワンダから来た悪党と、地元の民兵、それに国軍兵士も含まれる。これらがすべて、女性をレイプするのである。コンゴの警察機能は停止していると考えていい。政府が武装勢力を取り締まらないのは当然である。取り締まれないのだ。

武装勢力はどの国から武器や弾薬を調達しているのか。武器輸出の大国であるアメリカ、ロシア、中国からに決まっている。先進国の軍需産業がコンゴの紛争をいつまでも終わらせない。自分たちの商売に好都合だからだ。

武器を持ちながらジープで街を走るのは、男たちばかりだ。同じ考えの人間同士で集まって力を誇示し、他人を従わせようとするアホは、常に男たちである。ただしヤンキーの女子たちと右翼政治家のアホな女たちを除く。

政府がレアメタルを管理できていないというムクウェゲ医師の主張は多分正しい。武装勢力はレアメタルを奪い、その金で武器を調達していると考えるのが自然だ。レアメタルを強奪し、女性たちをレイプする。

2019年に来日し、広島を訪れて核廃絶を願ったムクウェゲ医師が、その時の総理大臣のアベシンゾウと会ったのは皮肉な話だ。アベシンゾウはロシアのウクライナ侵略を受けて、日本の核兵器保持を主張している。ムクウェゲ医師の願いはアベの心にはまったく届いていなかった訳だ。無力感というか、脱力感を感じた。多分アベシンゾウには心がないのだ。

コンゴの平和のためには、寛容と忍耐の教育が必要。教育を受けないと、平和の大切さが分からない。紛争は経済を疲弊させて、国を貧しくするだけだ。平和でなければ経済は発展せず、国民は貧しさから抜け出せない。

教室のシーンに希望を感じた。授業を受けているのは女性たちばかりである。コンゴの平和は、女性たちの努力によって得られる可能性が高い。ムクウェゲ医師の「女性たちに比べれば私は小さな存在だ」という言葉は、将来のコンゴを見越した言葉だと思う。女性たちが大きな存在になることがコンゴの平和となる。武装した男たちは全員退場だ。