春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。
そう、枕草子の冒頭の文章である。学校で習ったはずだが、はるか遠いむかしを振り返っても、その記憶は乏しい。しかしながら、いまにして読めば、“春はあけぼの” などのような言葉は、時間から美を切り取って表現しているかのように心にしみいる。
その枕草子をテーマにした「京菓子展2022」に伺った折に、お菓子が展覧されている部屋の床の間にかのような気になるお軸二幅が掛けられてあったのが目に入った。
想像を膨らませると、清少納言を思わせる平安貴族の女性が、お隣の部屋のにぎわいを見ようと御簾を上げている姿に見えてくる。二幅ある中の一幅は、内側から、そしてもう一幅は外から御簾を上げている絵である。想像を掻き立てる不思議な絵だが、その御簾は枕草子の世界と京菓子展をつなげるトビラのように見えた。
リポート&写真/ 渡邉雄二
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