以前、煎茶を稽古していたときに数々のことを教えていただいたが、記憶に残っているのはそう多くはない。
煎茶の席では、よく「旅立ち」がテーマになっていた。
親元から巣立っていく子供、苦楽をともにした友人との別れ、好きな人との別れなど。この季節は、いろんな別れがあり旅立ちがある。そのテーマには、やはり玉露の味が情感をさらに豊かにふくらませる。
中国の故事に、旅立ちに際して、よく使われるものに「柳」がある。別れを惜しむかのように、柳の枝を折って渡す風習があったとされている。ご存知のように、むかし服などを収納するのに柳で編んだ行李(こうり)が使われた。柳には殺菌効果があることから使われていたものである。その柳の枝を環にするところから、元気で帰還の待つという意を表したとされる。
そんな旅立ちのときに詠まれる詩が思いだされた。それは「折揚柳(せつようりゅう)」、煎茶席でよく掛けられていた漢詩である。
水辺楊柳麹塵絲
立馬煩君折一枝
惟有春風最相惜
殷勤更向手中吹
喉にくだる液は一滴もない、と言われる玉露を楽しみながら、日常を忘れる時間を楽しんでいた。漢詩は残念ながら精通していないのでわからないが、解説を聞いているだけでも情景が浮かんでくる。漢詩風にいうと「詩中有画」である。教わったことに加え、資料を参照し何度も詠んでいくと、門外漢の私にもなぜか響いてくる。
現代訳では、
水辺の柳は若芽が萌えて
黄緑色の糸のように春風にそよいでいる
そこで 馬を止めて君に一枝おってもらう
すると春風は いままでたわむれていた柳の枝との別れを惜しむかのように
あなたの手中の柳に向かってねんごろに吹いてくるのである
ということになる。
(折楊柳の漢詩訳を参照)
新しい年度を迎えるにあたり、寂しい別れがあるが、新しい出会いもある。一期一会にはじまりご縁がつながることもまた楽しみである。
リポート&写真/ 渡邉雄二
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