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蕎麦(そば)喰らう主を睨(にら)む獅子頭 海人
正月の獅子舞を見なくなって久しい。獅子頭は、木製で漆塗り。獅子頭の口が開閉しカタカタ鳴る。舞が終わると、その口がご祝儀を銜(くわ)える。獅子の体は、唐草模様の大布。笛や鉦もあったように記憶している。
獅子の主とは、勿論獅子頭を操る親方に違いない。獅子頭を外し、布を畳み、振舞われた蕎麦を啜っている獅子舞の二人を、少年がものの陰から覗いている。
「このおじさん達がやっていたのか」「あの蕎麦うまそうだなあ」
二人を睨んでいるのは、縁先に置かれた獅子頭ではあるが、怖がったり、驚いたり、がっかりしたり、羨ましがったり、本当に睨んでいるのは、少年時代の作者なのかもしれない。
兎に角、数十年前までこういう光景は、日本の津々浦々、山村で見ることができた。富山の薬売りなども、戦後の変化と共に消えて行ったものの一つ。