ソ連時代のロシアにおいて、大学生のトレッキンググループが冬山で遭難事故に遭い
全員が不可解な理由で死亡する事件があった。
その事件「ディアトロフ峠事件」の真相を探るルポルタージュ。
内容は、事件の真相を探る著者、当事者であるトレッキンググループ、
事件後の捜査関係者の動向の3者の立場で構成されていて、残された遺体、遺品、写真、
日記、捜査資料、関係者の証言、著者自身が現場を見た経験などを基に推理しており、
ミステリー小説のような構成でとても面白かった。
当時の環境、例えば過酷な自然環境や大学生達の動向、考え方など、西側ではなかなか
知りえないソ連の状況についても書かれており、大変興味深かった。
著者は、この事件に対する様々な可能性を検討し、消去法である結論を導き出す。
仮説ではあるが、現時点で最も可能性がある原因と考えている。
携帯電話やGPS、詳細なマップ等多くの情報が得られる現代のトレッキングと違って、
地図(それも不正確な)以外に全く情報が無い時代のトレッキングは、冒険に近かった。
国外に出られないソ連時代の若者は、自己のストレスをそういうもので発散していたようだ。
危険とは隣り合わせだが、それに挑戦し、自分達のスキルを向上させて評価してもらう。
これがトレッキングのモチベーションになっていたらしい。
自分を成長させるための若者のチャレンジというのは永遠のテーマなのだろう。
読んでみて事件の謎解きも面白いが、事件そのものよりも、当時のトレッキング活動に
興味が湧いた。通信手段を全く所持せず、情報が少ない中で行う旅は、現代の基準では
とても過酷な旅に見えるが、仲間で議論したり歌ったりしてそれなりに楽しいもののようだ。
たまにはスマホを置いて、仲間と旅に出るのも良いかもしれない。