隣の奥様からジープについて聞いた次の日であった。
薫子は隣の奥様が道にいるのを見た。ジープに乗ってきた若い男性もいる。
2人は道に止まったジープの傍らで何やらにこやかに話しているのだ。
薫子はこの2人の様子を、自宅の窓外に見つけてからじっと見守っていた。
その内2人は何だか言い合っているような感じになった。
奥様の顔は、薫子の家の窓からは後姿なのでよく見えなかったが、もう笑ってはいない気配だった。
若い男性の方も、少し険しい顔付きになった。
彼は盛んに口を動かし、奥様の方も肩が揺れて何か彼に意見している様子だ。
如何やら2人が言い争いをしているのは確からしかった。
やがて奥様の方は肩を落とした感じで相手の話を聞くのみとなり、最後は男性の方がそっぽを向いたような感じで、
2人の話は決裂した様相に変わった。
薫子は既にジープについて奥様の話を聞いた後だったので、外の2人の様子を興味深く見守っていた。
男性の方はこちらに顔が向いていたので、その顔色と様子から、家の中の薫子に気付いたようだった。
薫子もそれと分かり、窓から離れようかと迷う中で2人の話し合いは終わったのだった。
隣の奥様は男性にくるりと背を向けて、そのまま家の陰に消えた。彼女の顔色は冴えなかった。
奥様はどうやら自宅に戻ったらしい、姿が消えた方向に彼女の家の玄関があった。
薫子は遠目に1人とり残されて道に立つ男性の姿を眺めていた。
彼女の視線に本当は気付いているのかいないのか、彼は道に佇み凛として微笑んでいた。
相変わらず畑の道には似つかわしくない背広姿だった。
が、その着こなしはカジュアルな感じで砕けたものになっていた。
『外人さんよね。』
彼女は思った。茶色系の髪の色からみても落ち着いた雰囲気の人だ。
隣の奥様と並んでいたので背丈もそう高くない事が分かる。体格もほっそりしている。
彼女が相変わらず彼の事を眺めているのを本人が知ってか知らずか、
にこやかに悪びれるところなく道で出で立っているところを見ると、
彼は決して嫌な雰囲気の人ではなく、反対に好感の持てる人物に彼女には思えるのだった。
少なくとも薫子には、その時、彼を嫌いになる要素を全く彼の雰囲気の中に見出せ無いでいた。
明るくて清らかで純真、いかにも若者然とした彼の様子を見て、薫子は隣の奥様の言葉を思い浮かべていた。