Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

straw  hat 2

2017-01-29 11:58:44 | 日記

 日差しが眩しく差し始めた初夏から、カンカン照りが盛んになった真夏の候

彼女はこれまでと違って、初めてシーズンの初めに購入した今年の麦わら帽子を愛用していた。

近くのお店に買い物に行く時も、山道を所在無さげに逍遥してみる時にも、

この帽子1個のみを使い回して軽装で出かけるのだった。

事実、彼女は他に夏用帽子を持っていなかった。お洒落に出歩きたい時には日傘をさしていた。

しかしこのような郊外では改まった服装で出かける場所が実際に無かったのも事実である。

殆ど買い物にしか出歩かないのだから、手の空く麦わら帽子は彼女の買い出しの常のお伴であり、相棒だった。

 彼女は山道の夏草のむーっとする香りを楽しみながら、山を迂回する広道の車道のコースから、

ご近所の人に教えてもらって、山肌の斜面に作られている急階段の近道を覚え、

あちらの小道、こちらの小道、また、隣町への山道など、海へ降りて行く斜面の階段を新しく発見しながら、

この新しい住まいの土地に徐々に慣れて行った。

 彼女にとって、段々畑から海辺へと降りて行く道は、見晴らしの良さや潮風の心地よさからお気に入りのコースだった。

畑では年配の婦人や初老の婦人、かなりの年齢らしい婦人まで、主に女性を多く見かける事になった。

ここは海辺の町であり、働ける土地の男性は漁に出ている人が多かったのだ。老齢な男性でさえめったに見る事が無かった。

彼女が麦わら帽子に軽装のズボン姿で段々畑の中を下りて行くと、

誰かしらによく挨拶されたのは、全く風景に馴染んでいたかららしかった。誰か土地の人と思われるようだった。

薫子がこの様に土地に馴染んでしまったものだから、竹雄はある時彼女にこう言ったものだ。

「君の都会的なところが気に入って嫁に貰ったのに、何だか田舎臭くなったな。」

彼女はこれを聞いて苦笑いしながら、

「田舎にいて都会的になれと言う方が無理じゃないかしら。」

と返した。ぐうの音も出ない竹雄だったが、言い返されてややカチンと来たらしかった。

それでもこの夫婦はまだ新婚という事もあったのかもしれないが、傍目にはそれなりに仲の良い夫婦に見えた。

 

 


straw  hat 

2017-01-28 20:46:00 | 日記

  彼女の夏の定番は麦わら帽子だった。

幼い時、母方の祖母に夏休みの土産にと買ってもらってから、彼女は何時も夏になると麦わらの帽子を被っていた。

 彼女の名前は青木薫子。歳は27歳で今年の春に結婚したばかりのまだほんの新婚さんだった。

彼女と夫は結婚して新婚旅行から帰り、すぐにこの山の手にあるまだ開拓途上の住宅地、その一角にある新居に入った。

だから薫子はかなり幸運な女性といえるかもしれない。

 夫の竹雄は普通のサラリーマン、商社に勤めていた。次男になるので親の方で住まいの方を提供してくれた。

舅夫妻は健在で長男夫婦と同居していたから、薫子は全く自分達夫婦の心配だけをしていればよかった。

こんな点でも気楽な毎日の薫子は、夫の両親と同居する友人等から相当羨ましがられていたものだ。

が、気楽というのも所在無い物であった。新婚旅行から帰っての1週間程はあれこれとする事も多かったが、

やがて荷物など整理してしまい、日々の生活にも慣れてくると、彼女の1日はかなり長く感じられるようになった。

平日は1日1人で過ごす事になるのだ。彼女は有閑である。

 そんな彼女の楽しみの1つが買い物になったのは当たり前かもしれない。

買い物と行っても此処はかなりな郊外、お店らしいお店も無いのだが、隣町まで行くと大手スーパーと農協のコープビルがあった、

そこで彼女は仕事着などの販売ワゴンの中から、今年の夏用の麦わら帽子を選んできた。

『夏の私の定番なのよね。』

彼女は気に入った麦わら帽子をワゴンから取り上げると、いそいそとレジへと急いだ。

何時もは夏の終わりにセールス品の麦わら帽子を買う、それを翌夏に使用するのだ。

独身時代から薫子はかなりの倹約家であった。

結婚して夫に贅沢にしていいと言われてはいたが、やはり無駄遣いはしたくないのである。

売り場にはお洒落な夏用の婦人帽もあったのだが、レースの帽子など使い慣れていない薫子は、

どうしても愛着のある麦わら帽子に魅かれてしまうのだった。

値段から見ても、安価で実用的な普段仕様の麦わら帽子を選んでしまうのだった。

また、彼女は、長の経験から麦わらの影が作り出す涼しさをよく知っていたのだ。

 

 

 

 

 


交際(ミルと初子の場合)、16

2017-01-28 09:31:20 | 日記

 「お前、艦長になりたいんだって。」

行き成り勤務中のミルの目の前にやって来た副長のチルが言った。

驚いたミルだが、頬を染めながらはっきりとそうですと言う。

副長は言う、お前が交際申し込みの草稿を読んだ時、確か将来の希望は副長じゃなかったか?

理想は高くです。目を輝かせて少年の様に言うミル。

その顔を見ながら、副長は内心気持ちが引けてくる。

『ここを、特殊任務に就かせるんじゃなかったかな。』

そう思ったのだ。

 「ま、人には分相応というものがあるから。」

はっきりそう言うと、副長はミルの肩をポンと叩きにこやかに去っていった。

 ミルにしてみるといい気持ちはしないのだが、確かに副長の言う通りだと思う。

1つの物に拘ってしまって、決断するのに時間がかかってしまう自分では、

大きな船を動かすのはやはり無理だろうと思うのだ。

今引き受けている任務だけでもきちんと熟してしまおう。そう思うミルだった。

 さて、今日の勤務を終えたミルは特殊任務のリポートに取り掛かった。

初子との今まで2回の交際についてまとめてみる。明日は副長に提出しようと思う。

 翌日の夜、副長の部屋でシルとチルは共に語らっていた。

ハハハとチルが紙を見ながら笑いだしたので、シルは如何したのかと尋ねる。

いや、このミルのリポートがね、とチルは彼女に読んでみるかいと差し出す。

シルは彼からミルのリポートを受け取ると目を通してみる。

うふふと目を細めて微笑んでしまう。

凄いわねこれ、ミルが書いたの、何というか傑作ねとチルにレポートを返す。

 リポートには初子との電話のやり取りがかかれている。

……

1回目、自分、こんにちは、元気ですか?

    初子、こんにちは、元気です。

    自分、こちらは良いお天気ですが、そちらはどうですか?

    初子、こちらは雨です。

    自分、そうですか、ではお元気で。

2回目 自分、こんにちは、元気ですか?

    初子、こんにちは、元気です。

    自分、こちらは雨ですが、そちらはどうですか?

    初子、こちらも雨です。

    自分、そうですか、ではお元気で。また連らくします。

……

目を戻して見ると、交際申し込みの初子の父への言葉にはこう書かれていた。  

自分「初めまして、私は宇宙○○艦隊の下士官ミルという者です。出身は★★です。

   今はまだ見習いに近いですが、将来はこの宇宙船の様な船の艦長になるのが希望です。宜しくお願い致します。」

  「地球人女性との交際について調査研究したいので、お嬢さんの初子さんとの交際をお願いいたします。

   将来的には結婚を目的としております。よろしいでしょうか?」  

……

 

最後のまとめはこう書かれていた。

 今まで2回は、地球人女性の初子さんと電話で同じ時間を共有してみました。概ね良好です。…

 …、…。

 今後は、地球上での場所を特定したりして、時間と空間を共有する交際を行う予定でおります。

                                          以上

 

 シルとチルはミルのリポートに一頻話の花を咲かせると、今まで居た寝床から下り、

2人で窓外の白い雲と、大抵は深い群青色の水の部分から成る星を眺め、うっとりと愉しい時間を過ごすのだった。

 

  交際(ミルと初子の場合)、終わり


交際(ミルと初子の場合)、15

2017-01-28 08:07:22 | 日記

 「はいはいそうですか。…」

初子が家に入って行くと、父はまた電話口で誰かと喋っていた。

お父さん、よく電話で話しているなぁと初子は思う。

 彼女が鷹夫こと異星人ミルと交際し始めて3か月ほど過ぎただろうか。

その間、彼女が彼と電話で話したのは2回ほどだ。

こんなに四六時中父が電話をしているとは、もし彼が初子に電話して来ても、話し中で通じない事だろうと彼女は思う。

今まで父の長話で電話が通じなかった、とは友人の誰からも言われた事が無かったが、

彼女は今現在の父の様子を目の当たりに見ると、電話の父所有の時間の長さを改めて感じるのだった。

 彼女が横目で父をちらりと見ると、

父も彼女の視線に気付き、じゃあ、長いからと電話を切った。

「初子。鷹夫君だがなぁ。」

うん、初子が父に気を向けると、父は彼がどんな様子かと尋ね始めた。

 別にと彼女は言う。

如何とも。

 以前父に昨年の馴れ初めから今年の夏まで、誰と何処でどんな話をしたか迄、聞かれるままに話してあった。

それ以上は特に彼との間に進展は無い。何も話しようが無かった。

交際を始めてから2回の電話で、しかも大して最初の頃と変わりない遣り取りが行われるだけなのだ。

如何話しの進みようもない。

彼女が父にそう言うと、父も向こうさんもそう言っておられたがなぁと嘆息気味である。

 実はなぁと、父は話し始めた。

鷹夫君から電話がある前に、何度か彼の家の人からお父さん宛に電話があってな、

お父さん、お前に取り次ぐ前から鷹夫君の事は知っていたんだ。それでちょっと調べてみたんだ。

父の言葉に初子は目をぱちくりする。

ああそうなのかと思う。

家では父が知っている彼との交際を、彼の家の人も皆知っているのだと彼女は思う。

そういえば、父が知っているという事は、家では母や妹も知っているという事だと合点する。

それで、と初子は父に話を促す。

 父は言いにくそうに、彼は変なんじゃないかと彼女に言い出す。

「変?」

変って、と彼女が父に尋ねると、ちょっとおかしいとか、変な事を言うとかするんじゃないか?と父は言うのだ。

彼女は考えてみるが、考えても電話では2言3言で終わる電話、長く話したと言えば最初の時、今年の再開の時である。

特に変な事は無かったなと彼女は思う。

 特に、普通よ、そうお話されるような人ではないし。

彼女の返事に父はうむと言葉少なだ。

そこで父は彼との交際を止めないか、と初子に持ち掛けてみる。

「如何して?私鷹夫さんの事は気に入っているから、止めたくないわ。」

と返事をする彼女。

そうすると意外な事に、お父さんも鷹夫君の事は気に入っているんだ、と父は言うのである

なんだ父娘2人とも気に入っているのなら問題ないじゃないか、と初子は思った。

何が問題なのだろう?初子は父の話に集中し始めた。

 「実は、…」

父の話では鷹夫は父への挨拶の時に洒落た自己紹介をしたのだそうだった。

その内容というか、構成というか、それが父の好みにドンピシャリと収まっていたという。

「私のツボを心得ていてなぁ。」

と笑顔で身を乗り出すように話す父。

よく話の読めない初子である。鷹夫はどんな事を父に言ったのだろう。訝る彼女に父は言った。

「お前お父さんと昔よく見たテレビドラマを覚えているか?」

ほら、宇宙とか宇宙船が出てくる。ああ、あれね、よく覚えているわと父娘はにこやかになる。

「スタートレトレね。」

面白かったわねと娘が言うと、頷きながら父は、お前あの中では誰が好きだったと聞く。

 「もちろん、Mr.スポイトよ。知性派だもの。」

やっぱりなと父は少々がっかりしたようだ。

あれは少しお堅いだろう。お父さんはダグラス船長の方が好きなんだ。と言う。

父が言うには船長は適度に女好き、英雄色を好むだ。などと言う。

初子には父の話の趣旨が分からなかった。

父は何を言いたいのだろうか。

「それで、お前、鷹夫君はあの中だと何になりたいと思う、向いている役職だけど。」

と聞く。

鷹夫さんが?初子は考えてみる。

そしてそれはやはり知性派でお堅い役どころのMr.スポイトだと答える。

「そうか、その辺が彼との意見の相違だなぁ。」

父はそう言うと、顔を暗くして沈み込むのだった。

 

 

 

 

 


交際(ミルと初子の場合)、14

2017-01-27 20:08:48 | 日記

 「お父さん、鷹夫さんとの交際が嫌なら断るわよ。」 

初子は父にそう言ってみた。

父は喜ぶかと思いきや酷く驚いた様子で、えっと言った。

お父さん、何だか私が男の人と交際するのが嫌みたいだから。彼女がこう言うと、

父はしげしげと初子の顔を見て、真顔で黙っていた。

 「お父さん、この前からおかしいでしょう。」

初子はそれが鷹夫からの電話があった直後からの事だからと、

自分達の交際が本当は父の意に副わないのではないかと聞いてみた。

 「いや」

父は静かに言った。初子の顔色の様子を見ながら、逆に彼の方が娘の事を案じている眼差しに変わっていた。

父は最初言い淀んでいたが、静かに娘に話し始めた。

 「お前お父さんに、男の子とは話もしたくない、彼氏も要らないと言っていただろう。」

だから、お父さんお前に男の子を近づけないように気を付けていたんだ。

そんな話を始めるのだった。

 父の話を聞き終わった初子は唖然としていた。

「お父さん、それって何時の事だか分かる?」

そう、それは初子が14歳の時の事だった。今初子は22歳である。8年も前の話であった。

確かに初子にも父にそう言った記憶があった。

しかし、彼女の方は当時、相当父に八つ当たりしたり、彼女ともめたクラスの男子が、

彼女だけでなく他の女子、また男子とも相当問題の多い生徒だという事に気付き、

自分だけじゃ無いと思うと、彼女の頑なな気持ちも自然解れてしまったのだった。

 そうか、父にそんな気持ちはもう無いと言った事が無かったなと彼女は反省した。

「お父さん、それは昔の話よ。私だって普通に彼氏は欲しいし、そろそろ結婚だって考えているわ。」

父は初子のこの言葉に大きく目を見開くと、それは本当かと彼女に念を押すのだった。

そして、父は長の年月の自分の気苦労が徒労に終わったのだと思うと、心底疲労感が湧いて来るのだが、

にこやかな娘の笑顔を見ていると、自分の娘が普通の子であり、

他所の子と大した違いの無い、同じ様な成長を遂げている事にほっと安堵するのだった。