眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ランナーズハイ

2009-09-08 22:01:28 | 狂った記述他
誠に勝手ながらドクター昼寝のため午後の診療はお休みさせていただきます



「昨日も休みだったぞ!」


ランナーは、足を止めて言った。


「申し訳ありません」
タロは起き上がって、頭を垂れた。
それからまた地面に伏せると、ゼエゼエと言いながら休んだ。
仕方がないもんだと言って、ランナーは診療所の周りを走り回った。グルグルとただ走った。太陽に引かれ導かれる地球のように、自然と幸運に恵まれた走りだった。
ランナーの腕の角度は、まるで帰宅途中のブーメランのように一定の形をしていた。
何周も走り内に、ランナーは診療所の前でタロと会うと、時折、まだですかと訊ねた。

「まだです」
タロは、その度起き上がって頭を垂れた。
それからまた地面に伏せると、ハアハアと言いながら休んだ。タロはとても疲れていた。
まるで疲れを知らないランナーは、ジンジンと走り続けた。ランナーの走りにつられて、天上の赤い天体はゆっくりと引っ張られていくようだった。リットンリットンとダイナミックに走るランナーを、道行く何人もの人が見かけ、その燃えるような走りにある人は手を伸ばそうとした。また、ある人は逃げるように遠ざかり、水を探しに行った。時折ランナーは、ひょっこりひょっこりと走ることもあった。それは自分で自分の走りを調節している時の走りだった。そうしてまたランナーは、走り続けた。ジッタリンジッタリンと走り診療所の前まで来ると、まだですかとタロに訊いたのだった。

「まだです」
タロは、起き上がって頭を垂れた。もう、太陽はどっぷりと落ちそうな色をしていた。
強い風が吹けば、間もなく落ちるだろう。タロは西に向かってほえた。




「私はいつも走っているのです」
走りを終えたランナーは、落ち着いた調子で話し始めた。
「私は、いつも、走っています。
先頭集団を築こうと必死になって、走ります。それで気がつくと、誰もついてきていない。
先生、私はどうすればいいでしょうか?」
タロは、ランナーの話を耳を立てて聞き取ると、ドクター・ミューに訳し伝えた。
白衣の猫は、長い眠りから覚めたせいで細い目をしていたが、それは徐々に丸みを帯び澄み切っていった。

「築くということは大変なことです」
ドクター・ミューは、ランナーの向こうの幻の集団を見ながら言った。
タロは、ドクターの言うように、ランナーに伝えた。
ランナーは、次の言葉を待つように右手で左の肘の辺りをさすっている。左手の甲から汗が数的落ちた。
診療室の狂った時計が、ようやく正午を回った。

「私も走りたくなりました!」
そう言うと、ドクター・猫は早速白衣を脱ぎ捨て、診療室の窓から跳び出していった。

「また行ってしまいました」
タロは、頭を垂れながら小さな声でつぶやいた。
「追いかけますか?」
それから、もっと小さな声でランナーに問いかけた。
ランナーは、腕組みをしたまま人形のように動かなかった。
コメント
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