順調だったよね
完璧だったよね
ずっと
ずっと
うまくいってたよね
不安はなかったよね
問題はなかったよね
まるで
まるで
*
「ねえ、ノヴェル。何書いてるの?」
マキが近寄ってくると、猫は瞬時にケータイを閉じてしまう。
----見いちゃ、ダメ!
小さな顎の下に子猫を隠すようにした。黒さに紛れてそれは見えなくなった。
「私のケータイでしょ」
けれども、猫は耳を貸そうともせずに伏せていた。
しばらくの間そうしていて、マキがいなくなるのを待って、再び取り出した。
ケータイを器用に開くと、それよりもっと器用に文字を打ち始めた。
マキから盗んだものではなく、それは猫自らが選び出す言葉だった。
*
まるで
まるで
平和だったよね
完成も
間近だったよね
なんで
忘れちゃったんだろ
ねえ
とても
順調だったよね
順風だったよね
とても
ここに来るまでは
*
こっそりと近づいて、マキは画面の中を覗き見ていた。
「ねえ、って……」
「あんた、ドミノ倒しでもやっていたの?」
----見いちゃ、ダメ!
猫が気づいて、再びケータイを閉じた。
降りてきたばかりの夜の中に、猫はケータイをくわえて駆けていった。
夜の色にすっかり溶けて見えなくなった。