眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

一番風呂

2009-09-10 22:01:51 | 猫を探しています
 「トカゲ整骨院?
 いいえ。ここはフランサ催眠クリニック」
 夢診断であなたの探し物を見つけましょう。

 僕は、夢の実験台となった。
 「それでは始めます」
 フランサが、ひらひらと二千円札を動かした。見つめていると様々な疑問が湧いてきて、徐々に夢見心地になっていった。
 「あなたの見ているのは何ですか?」
 「僕が見ているのは、夢です」
 そうして僕は夢を見始めた。

     *

 温まりたく歩いていると声がした。
 「沸いてる風呂にどうぞ」
 するともう一人の声が「沸いている風呂にどうぞ」
 沸いている風呂を探りながら歩くがどれがそうなのかわからない。わかりにくい。どこが銭湯地域でどこが非銭湯地域かなんて僕にわかるわけがない。頭に白タオルを載せた犬の姿が見える。見た目は風呂だが、実際はあっさりしょうゆラーメンのスープかもしれない。ふと見るとおじさんが麺を切っている。しゃっしゃっと湯きりしている。
 「何をしている? ぼやぼやしていると乗り遅れるぞ」
 おじさんが一喝すると、電車の中だった。
 「詰めろ!」
 電車のリーダーが号令をかけて、乗客が一斉に詰まる。
 隣のおばちゃんが、おしぼりだよと言いながら手渡してくれた。
 けれども、それは巻物だった。
 「広げると世界を覆ってしまうから少しずつ広げなさい」
 少しずつ広げると少しずついい香りがして、うとうととした。
 「湯加減はどうだった?」
 「とてもよかったです」なんてことないうそ。

 回ってきた車内販売に少年団が群がっている。
 「お客様は何年生まれでしょうか?」
 「昭和66年!」
 元気に言い放った少年の唇の上では、豊かな髭が蝶のように揺れていた。
 「それでは干支は?」
 「エトーはバルサ!」
 ビール、ビールと手を伸ばすがビールは出てこなかった。
 申し訳ございませんと頭を下げてワゴンは通り過ぎていった。
 「馬鹿! 昭和は64年までだぞ!」
 ゴジラののユニフォームを着た少年が火を噴くと、66年の少年は赤い炎に包まれながら地べたに座り込んでしまった。すぐさま反省の輪が広がった。

 「ゴミを出しに行って、ついでに野球を観にいったの」
 「えっ、キツネだけ食べて帰ったの」
 「人がいない場所に転がせばいいのにね」
 カップルの会話を聞いていると気が狂いそうになり、次の駅で降りようと思った。
 けれども、次の駅になると金縛りで動けなくなった。
 「ぼやぼや病ね」と女が言う。
 「誰か医者を呼んでください!」
 「いるならいると言ってください!」男が叫んだ。

 最終駅で降りた。今日はどこに行っても人がいっぱいだった。
 改札を出ると風呂上りの犬がぽかぽかと近づいてきた。
 巻物を広げると犬は自ら近づいて世界の中に納まった。

     *

 「猫は見つかりましたか」
 「いいえ。犬でした」
 「惜しい」
 フランサは、手を叩いた。

コメント
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