眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ワン・ナイト・ゴール

2019-09-13 03:55:16 | ワンゴール

「明日の一面を飾りたくはないのか?」

「僕は新聞は見ないようにしています」

「不都合なことが書かれているからか?」

「僕が見るのは日曜の夜にあるテレビです」

「やべっちか? それなら私も見ている」

「そうです。僕もやべっちを見ています。そのために起きているし、部屋にテレビを置いているのです」

「活躍して出たいとは思わないのか? 自分のゴールシーンが映ったら最高じゃないか」

「勿論、自分が出ることを望んでいます。選手なら、みんなそうじゃないでしょうか」

「だったら、ゴールを決めることだ」

「疑問なのは、扱われるのがゴールシーンばかりだということです」

「当然だろう」

「どうして、何もないシーンは扱われないのです? 頭の中で考えているというシーンがどうしてないんです?」

「退屈じゃないか。そんな場面は」

「退屈? 頭の中は退屈なんですか? ゴールさえ入れば、退屈じゃなくなるんですか?」

「そうは言ってない。しかし、サッカーはゴールを決めるゲームだ。そこにスポットを当てるのは当然だと言っているんだ」

「ゴール、ゴール、ゴール……。みんなゴールが好きです。十秒あったら、ゴールを決めることは簡単です」

「そうだろう。今すぐ決めてほしいもんだな」

「でも、奇跡的にゴールの生まれない時間があります。ポスト、クロスバー、神。様々なものが奇跡の手助けをします。そんな時間が何分も何十分も続くんです」

「今がその時間だと言うのか?」

「そうとも言えます。結果的に、ゴールは生まれず、試合が終わることもあります。でも、僕たちは何もしなかったわけじゃないんです」

「残念な試合だ。私の立場としては、壮絶な打ち合いの末に負けてしまうよりその方がいい。勝ち点が入るからな。数字上のゼロはゴールが生まれないことでなく、負けてしまうことなのだ」

「それは選手と監督の立場の違いでしょう。ストライカーと監督の……」

「そうだ。私は勝ち点を積み上げること。君は得点を積み上げてくれ!」

「勿論、僕もそれをいつだって望んでいます。そうしてやべっちの中で使われることも」

「みんな爽快感のあるシーンを見たいんだよ。それが生きる支えになるという場合もあることなんだ」

「勿論、僕もそれは理解しています」

「明日のやべっちも勿論見るんだろう?」

「勿論。そうしないと一週間が終わりませんから」

「それははじまりとも呼べるわけだが」

「でも、時折やべっちが消えてしまう夜があるんです」

「十二月以外にかね?」

「政治的な行事や、他のスポーツにその座を奪われることがあるんです」

「選挙やゴルフのことを言っているのか?」

「まるで呪われたような夜です」

「君は選挙に行かないのかね? 我々はまず社会人として……」

「期待を裏切られたような夜です」

「大人にならないと。もう十分に大人じゃないか」

「いけないことだと思いつつ、選挙やゴルフのことを恨めしく思ってしまうんです。投票箱の中にやべっちが呑み込まれたような気がして、投票箱のことが嫌いになりそうなんです」

「やべっちだって選挙に行くさ」

「いつもあると思っているから。あって当たり前だと思ってしまうから、突然の空白に自分を上手くコントロールできないんです。それで投票箱にまで当たってしまう」

「つまらないことだ。人に当たるよりはまだましだがね」

「でも、それが世界の終わりだったらどうなるでしょう?」

「何だって? 君は得点王争いに立候補するつもりはあるのかね?」

「僕は最初から数字を口にするのは嫌です」

「目標を定めないのかね」

「山と盛られた料理は見るだけでお腹がいっぱいになります。もう食べた気になってしまいます」

「贅沢な話だな」

「小さなお椀に入った蕎麦なら一杯一杯、食べていける。そのようにしてすべて積み重ねたいのです」

「子供に宿題を出すやり口だな」

「ボールを蹴っている間、僕らはみんな子供です」

「元々は子供だったということだ。誰もがな」

「気が遠くなる風景を思い描きたくはない。一つ一つ魔物を倒している内についにはラスボスまで倒せていた。そういう風になれたらいいと思います」

「ゲーム感覚だな」

「夢の中で恐ろしい敵と格闘して朝になると町は白い雪の中にあった。そういう景色を描きたいのです」

「恐ろしい夢をよく見るのか?」

「毎日のように見るでしょうね。ほとんど覚えてはいないけれど」

「私が最近見た最も恐ろしい夢は、リーグ最下位に沈む夢だ」

「随分具体的ですね。現実への強い影響が見られます」

「夢はいつでも現実の延長だからな」

「不安、恐れ、願望、そうしたものがまとめて、ごちゃ混ぜになって現れるのが夢なのかもしれませんね」

「ちゃんこ、あるいは闇鍋だ」

「夢の中では、誰が誰だかわからない。ずっと母だと思っていたら突然売店のおばさんに、監督だったはずが大統領に、更には宇宙人になってしまう。その場その場でつき合っていくしかないんですね」

「まあ一夜限りの夢なんだからな」

「それでも何一つ疎かにできない。夢の中でも必死に生きている」

「夢が夢であるという自覚を持てないせいだろう」

「どんな悪夢であってもハッピーエンドなのかもしれません。最後に帰れる場所がある」

「朝だね」

「僕が言いたいのは……」

「ああ」

「やべっちを遮るものが選挙やゴルフなどではなく、もっと大きな、例えば世界の終わりだったら」

「世界は簡単に終わったりしないよ。目の前にあるゲーム一つだって、簡単には終わりはしない」

「果たして世界の終わりを恨んだりするのだろうか……」

「終わりのことばかり考えても始まらないと思うね」

「僕はその時、やべっちのことなんて忘れてしまうと思うんです」

「それどころではないからな」

「そうです。世界の終わりとなると、みんなそれどころではなくなってしまうんです」

「それで君は恨みを捨てることができたのかね?」

「ピッチの中は戦場です。でも僕たちは銃やミサイルなんて使わない」

「そんな野蛮なものは必要ない」

「はい。ボール一つあれば十分です」

「そう。ここはボール一つを巡る戦場なのだ」

「僕がちゃんとゴールを決めるためには、まず世界が安定して存在していなければならないんです」

「勿論そうだろう。幸いなことに、我々のディフェンスラインは今のところ安定して機能しているようだな」

「そのようです。そして、投票箱やグリーンを見渡せるような世界でなければ、それらを維持することもできないんです」

「我々も、世界の一部だからな」

「そして夢の一部です」

「いいや。すべて現実だよ」

「敵だと思えば味方、味方と思えば敵、それぞれが狭い空間で入り乱れ、審判かと思えば石ころ、ゴールだと浮かれれば旗が上がり、何もなかったことになる。どこからともなく駆けてくる犬。実に夢らしい」

「では君は誰なのだ?」

「僕はピッチに立つ戦士。あなたはベンチの前の軍師です」

「君を使い続けている自分が信じられないよ。まるでゴールの匂いがしてこない」

「大丈夫。ほんの一眠りの間に、僕らは多くの夢を見ることができる。記憶は夢を引き伸ばすことができるんです。だから、一つのトラップの中に無限の物語だって詰め込める」

「だから心配なんだよ」

「そろそろ約束のクロスが入ってくる頃です。頭一つで僕は合わせることもできるんです」

「本当だろうか。大丈夫だろうか……」

「自分を信じなきゃ」

「いつまで君の覚醒を待ち続けることができるだろうか」

「大丈夫。夢を見ていれば、いいんですよ」

 

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寝返りの旅

2019-09-13 03:26:27 | 夢追い
 寝返りを打ちながら君から離れた。眠ることはすべてにおいて必要な動作だった。寝返りを打つこともそれに劣らず必要な仕草だった。眠るのは主に夢の中で記憶を整理して、日々をフレッシュに保つためだった。けれども、その多くはハッピーな色彩からは遠く、ほとんどは悲鳴を上げたくなるような悪夢だった。眠りながら生き延びるためには、寝返りを打ち続ける他はなかった。隣で眠る君が、どんな夢を見ていたかは知らない。僕は寝返り寝返り、君から遠ざかっていったのだ。
 遠ざかりながら、僕は何かを待っている。雨がずっと同じ台詞を繰り返している。破れた台本の切れ端を、猫がくわえて逃げていく。追いかけるほどに、それは大事なことのように思え始める。

 ラップをかけて待つ。あなたは戻らない。ラップの中で熱は保たれている。どこにもない、私がこの手で作り上げたラップだから。夜は更ける。冷めることないラップの中で、時間ばかりが過ぎて行く。あなたはまだ戻らない。深夜になっても、ラップは終わらない。とうとう猫も踊り出す。踊りながら、出て行こうか。出て行ったスペースは、誰かの待ち望む場所にもなるのだろう。
 
 寝返りを打てば離れるだけでなく、離れた分だけ戻ることもあった。同じように寝返りを打つ君に近づき、ついにはぶつかることもあった。衝撃の強さによって小惑星が生まれ、それが新しい夢を引っ張っていく。その時、二人は必ず逆の方向へと進んでいく。触れ合った時でさえ、言葉を交わすことは一切ない。既に心は、新たな発見とより魅力的な対象へと向かっていたのだから。寝返りを打ち合いながら、互いの夢は引き裂かれていったのかもしれない。
 
 引き裂かれた夢の切れ端を追っていると、いつの間にかそれは星と入れ替わっている。星を追うので吊り橋がゆれた。危ないじゃないか! 彼女は足を止めなかった。もっと足元を見なきゃ。水面がゆれる。彼女は遠くを見ていた。私、恋をしたのよ。何も怖くないのよ。それは錯覚だよ。非日常が作り出した。目を覚まして。恋の相手は、あなたじゃないのよ。もうすっかり落ちたのよ。

 錯覚と教えられるほど、何かを強く信じたくなった。そして、信じられるのははっきりと目に見えるもので、どこかへ向かわせるものであった。
 三羽烏を数えて深い森の奥へと入って行った。数え終えたところでどこからともなく新しい烏が舞い降りた。今までお目にかかったことはなかったが、三羽目の烏と比べ勝るとも劣らない。迷いに迷い、その分捨て難くなっていく。私は一番最初に選んだ烏を手離した。やっぱり君に自由をあげるよ。
 
 寝返りの中で、君がどんな夢に運ばれていたかはわからない。僕の夢の登場人物としての君は次第にフェイドアウトしていったように思えるし、それに応じて悪夢としての色合いは少しずつ薄まっていったように感じられる。君の存在自体が、悪夢の脚色に大きく関わっていたとも考えられる。夢の断片に運ばれながら、君から離れていくことこそが僕には必要な運動であったのかもしれない。君の面影が入らないほど、僕は遠くまでくることができた。それは日々の旅が作り出した大きな距離だった。
 目の前に広がる距離がどれほどのものなのか、それは理屈でわかっていても、感覚の中ではいつも揺らいでいる。ゆらぎが過信に変わった時には、もう体は先に動いている。

 思い切り助走をつけて、思い切って踏み切った。体は宙に浮き、完全な孤独と連帯を同時に手にしたことを知った。どこにも着地点がないことを、遅れて理解した時、浅はかだった跳躍に後悔を覚えたものの、それは最後の選択だったと思い出した。もう、飛び続ける他はない。誰かが拾ってくれる瞬間まで。
「すべて遊びのようなものでした」
「夢の旅路で多くを学んだのね」
 夢の扉の前に猫が立っていた。戻りなさい。
「ここは夢の終点です」
 寝返りの途中に現れる猫の言うことをまともに聞くこともない。多くの闇を転々とした間に、少しは夢の渡り方を学んできた。

「君は幻か何かじゃないの?」
 扉はまだ、他の場所にもあるに違いない。僕は両腕を大きく広げて、胸いっぱいに夜を吸い込んだ。
 どこまでも転がってやるぞ。
 
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イルカはごめん

2019-09-13 03:02:00 | リトル・メルヘン
 僕らは翼を持った新しい豚だ。狸が扮装し木の葉を使い人の間で商売する間に、僕らは知恵を蓄えた。犬や猫が人の温もりに恋して家具の間を行き来する間に、僕らは夢と想像を膨らませた。檻に捕らわれ縄に捕らわれた時代を抜け出して、僕らは上を向き羽ばたく豚へと変化した。人間からかけ離れたものでもない。人間に近づきすぎたものでもない。気がついた時には、僕らは他の動物とはどこか一風変わった奇妙な存在になっていたのかもしれない。僕らは横から現れるような牛じゃない。枠から走り出すような馬じゃない。テクノロジーと大和魂を併せ持った豚。僕らは翼を持った新しい豚だ。

「妖しい奴が紛れ込んでいる」
 教官が一同の前に立ち冷静な目で言った。
 妖しい奴……。それはいったいどういう奴だ。
「飛べない豚はいるか?」
 確かめるまでもない。それは僕らにとっては初歩的な問題だった。新しい豚を正面から否定することだから。
「順に訊くぞ!」
 いるはずがない。今さら青い海になど戻れるか。
「いません!」
「違います!」
「愚問です!」
「当然です!」
「論外です!」
 表現は違っても答えはみんな同じだ。
「勿論です!」

「ほほー、そうか。じゃあ、君やってみて」
 教官は足を止めて言った。どうして……。からかっているのか。僕を疑っているのか。冗談じゃない。みんなの視線が僕に集中している。逃げ場はなかった。もう、やるしかない。久しぶりのテスト飛行だった。問題はない。これは初歩的なスキルなのだ。けれども、急に不安が押し寄せてきた。(もしミスをしたら……)その瞬間、この場にいられなくなってしまうのではないか。

「どうした?」
 僕の中の不安を読み取ったように教官が言った。
「いいえ。何でもありません」
 普通にやればできる。簡単すぎることなんだ。僕は上を向いて走り出した。その時、後ろからイルカの笑い声が聞こえるような気がした。
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ドクター猫

2019-09-13 02:23:22 | 忘れものがかり
「30分押しとなっております」
 
ファイルを手にして待合所に行くと
100人程の患者が既に待っている
 
これはとてもじゃないぞ
 
複数の科が混在しているにしても
人が多すぎる
 
窮屈な長椅子が
果てしなく伸びて見える
いつまでも名前を呼ばれないまま
時間は過ぎていく
 
小さな子の泣き声
1時間経っても人の多さは相変わらず
みんな昼ご飯食べないの?
 
耐え切れなくなって
僕はpomeraを開いた
 
ボランチとサイドハーフが
議論を交わしている
ドーナツの穴の向こうに
もう一つの居場所はあった
 
つながるパス
優れた戦術
心強いチャント
見えないゴール
ファールを告げる笛
13時
 
アナウンスの声が
がたつくpomeraを閉じさせる
 
「……さん。3、5、2好きな番号にお入りください」
 
僕はドーナツの絵を引きずりながら
2番の診察室の扉を開けた
 
「お待たせしたにゃー!」
 
しまった!
 
ここは猫の先生だ
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