人間とは、考える生き物である。
お昼は何を食べようかな。食べ物について考える。それは基本的な考えの1つだろう。美味しい肉ないかな。食べるについての考えが基本なら、美味しさを追求するのも人間の本能だろう。おやつタイムはコーヒーでも飲もうかな。コーヒー飲みながら、何食べようかな。夕方からビール飲もうかな。ビール飲みながら、何食べようかな。一日を通して、人間が考えを止める時間はほとんどないに等しい。人間の頭は大変だ。
「あの人、あんなこと言ってたけど、あれってどういう意味なんだ?」
僕は、その時ぼんやりとそんなことを考えていた。
その考えに割って入ったのは、女の声だった。
「そうなのよ。こっちももっと早くに伝えたかったけどね……」
姿の見えない相手と話す女の声は、だんだん大きくなっていく。
テラスならいいのか?
(別にどこでも関係ないのか)
早くどこか行かないかな。
(長居競争に、僕が負けるのでは?)
寒くないのかな? 他に行くところはないのか。
大事な話があるのかな?
落ち着いてかけて話したいのかな?
ここが一番いいのかな?
すっかり自分の世界に入り切ってるんだな?
(僕はここにいないんだな)
僕はもうどこか場所を移したかった。
でも、逃げたら負けだとも思い動けなかった。
コーヒーを飲みながら、ポメラの前にいた。キーボードに触れていても、どこにも進んでいなかった。電話女の大きな声がやたらと気になる。気になるのだと思えば、ますます気になる。テーブルを見ると、彼女はポットを置いて本格的にホットティーを飲んでいた。時々、電話の相手は変わっているようだった。けれども、話が終わることはない。
僕は、すっかり自分の考えを見失っていることに気がついた。
頭を乗っ取られてしまったのだ。
・
『考えのある人』
(折句/アクロスティック お題…お年玉)
美味しいスープないかな
鶏の美味しい店ないかな
シチューの美味しい店ないかな
たこ焼きの美味しい奴ないかな
マグロの美味しい店ないかな
美味しいカレーないかな
トマトの美味しいパスタないかな
シュークリームの美味しいカフェないかな
たまに食べたら美味しい奴ないかな
まかないの美味しい店ないかな
おもてなしの行き届いた小料理店ないかな
友達がやってる美味しい店ないかな
知る人ぞ知るような隠れ家的美味しいとこないかな
たぬきそばの美味しいお蕎麦屋さんないかな
魔法のように美味しいレストランないかな
表から外れた面白い道ないかな
時の経つのを忘れる面白い本ないかな
死にたくなくなるようなクレイジーな映画ないかな
だから言わんこっちゃないみたいな面白い例え話ないかな
真冬でもポカポカするようなエッジの利いたいい曲ないかな
オムレツの美味しい店ないかな
唐辛子の利いた美味しい料理ないかな
商店街に美味しいお寿司食べれるとこないかな
誰にも知られてない美味しいラーメン屋さんないかな
マロンケーキの美味しい喫茶店ないかな
鬼の出ない平和な昔話ないかな
友達に教えたくないような美味しい話ないかな
失敗してもやり直せるような優しい国ないかな
種を明かしても楽しめるスルメみたいな手品ないかな
真面目に働いたら美味しいもの食べられる未来こないかな
思わずありがとうと言いたくなる美味しすぎる店ないかな
とめどなく感動が押し寄せるような美味しい料理ないかな
知らない間に足が向かうような美味しいレストランないかな
だから生きていくんだなと思わせる美味しい出会いないかな
真似てみたくて真似できないような美味しい味付けないかな
美味しさは
とどのつまりが
詩の世界
誰かの好み
またの名を愛
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すべての電話を終えて、女は席を立った。
僕は内心で手を叩いて喜んだ。
(負けずに済んだかよ)
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