眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

スピーチ自慢大会~風のリスナー

2020-12-14 12:02:00 | ナノノベル
チャカチャンチャンチャン♪

「はい。ざんねーん」
 つかみに躓くと鐘を鳴らされた。
「ちゃんと聞いてください!」
 つかみ、引っ張り、揺さぶって、落とす、準備はすべて整っていた。トータルで判断すべきではないか。
「いえ、もう結構ですから」
 結末まで聞かせるつもりだった、俺の心は折れかけていた。

「1度の躓きくらいで、俺のすべてを否定するんですか」
「そういう大会です」
「本当にそういう世界でいいんでしょうか」
「そういう大会ですから」
「それでは話が通らんでしょう。こっちはもっと聞かせたいんだ!」
 最後まで聞けば納得する話を持ってきたのだ。

「どうかお下がりください」
「チャンスは2度ある! そう聞いたことはないですか」
「いえ、この大会は1度切りですので」
「ローカルルールでしょう。例外はないんですか」
「平等に1度切りです」
「世知辛いですね」
 話す機会を奪うことは聞く人の楽しみまでも奪うことだ。

「そういう大会ですから」
「さっきからそればっかりだな!」
「どうしてもお下がりいただけないのでしたら……」

「残念だな」
 そして客は目の前から消えた。
 きっと俺の方がいなくなったのだ。

 競技志向を離れ、俺はストリートに立っている。
 ここには躓いたくらいで鐘を鳴らすような者はいない。客席もなく、観客もいない。時々、猫がやってきて物欲しそうな顔をしてみせる。

「お前の望みは何だ?」
 俺の望みと交換しようか。未来の風景はいつだってわからない。風が次々と落ち葉を運んでくる。次の瞬間、誰かが足をとめてもおかしくはない。


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