眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

振り子

2012-05-10 19:18:05 | 夢追い
 ブランコは徐々に振り幅を増して大物俳優は今にも投げ出されて遠い世界に飛んでいきそうだった。公園の中で映画の撮影をしている。駆け寄ってブランコを奪おうとする犬を何とか押さえた。「待て。今は撮影の途中」よく見るとブランコに乗っているのは俳優の方ではなく、人形の方だった。俳優は揺れるブランコの下に隠れて密かに声だけを被せているのだった。「風になれ。明日は、風になれ」
 コンパスの軌道にそって外国人の先生は寂しげに帰っていき、ちょうど入れ違いに僕が入った。
「500円でどれだけ買えるかやってみましょう」
 いいね。僕はマネージャーの提案にときめいた。「何をメインに考えてる?」本などは除くようにという意見に賛成だ。今入ってきた飴玉とご飯ですと僕は答えた。ご飯?
「そうこんなね」缶詰の横には、紐に吊るされたおにぎり。消費期限はたっぷり3ケ月あった。

「答えは歩きながらでないと見つからないよ」と父の声。

 キラキラ緑の飴の散らばった道を裸足で上がってゆく。パトカーが坂を滑り落ちてきても僕は平気だった。昔、秘密の基地にしていた場所には今はもう知らない誰かが住んでいた。自由に入り込めた場所にもしっかりと囲いがあって、猫でもない限り容易には入り込めない。近所だったおばちゃんとすれ違い頭を下げたが、向こうは気づかない様子だ。網戸の中を覗き込むと老人は巨大なテレビの前で置物のように固まっていた。別の家の窓を覗き込むと、薄暗い部屋の中で男はソファーに寄りかかりながら小刻みに震えている。

 月が落ちてきたと思えたのは人形だった。
 きっと人形は風になったのだ。

(なんて不健康なんだ)
 かつての基地、現在の所有者たちの暮らしの断片……。それは突如として自分自身に重なる。いつの間にか姉が帰ってきてピアノを弾いていた。けれども、本当に姉なのかどうかはその背中を見る限りではわからないのだった。
 メトロノームが規則的に時を刻む、その先端でおにぎりが揺れている。

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シングル

2012-05-09 19:14:49 | ショートピース
みんないなくなるまで待った。みんながいると出ないことを知っていた。ようやくみんながいなくなった後、1人残って待つことは寂しかったけれど、寂しさだけが君へとつながる扉だと知っていた。何もない場所から今にも現れそうな君の幻が浮んで、消える。「僕はもう1人になったよ」。#twnovel

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犬笛

2012-05-08 18:52:36 | 夢追い
 女の後についていって、そのままドアの向こうに消えようとすると先生に呼び止められた。安全圏に到達する僅か3秒前だった。そのドアさえ完全に越えれば、どんな声が届いたとしてもすべて無視して階段を駆け下りることに決めていたのだ。
「おまえはまだだ!」
 女の後についてそのまま帰るつもりだったな。すべてお見通しというように先生は言った。「だって先生、寝てない上にNHKなんです」それに、木琴の音から始まるなんて、とても無理です。僕はみんなの標的にされています。みんなが寄り集まって、輪をかけて輪をかけて、僕はどんどんその中に埋まってゆくのです。救助信号は届きません。幾重もの色彩の中で無口になったコケシの声を聞き届ける、そんな手の平はどこにもないのだから……。

「98点」
 それが僕の呼び名であるように一瞬教壇に歩み寄ろうとしたが、その本当の持ち主が一足先にその美しい答案用紙を受け取る。それはそうとたどり着いた自分の机の上には、53点が恥ずかしげもなく置かれていた。(真実を見よ)
(どこがどう間違えているというのか)
 腐り果てて危なげな橋を渡れなくなった犬たちをみんな助けるには?
 正解は、土に埋もれて死んでみせること。危険を知らせ自らを与えみんなを救う。
(死んだら意味ないだろ!)助かってないぞ。
「犬笛を吹いたらどうですか?」
「犬笛は駄目と最初に書いてありますね」
(どうして駄目だ? どうして最初から決め付ける?)
「スーパー犬笛はどうですか?」
 先生は聞こえない振りをした。絶望的な疑問符を詩のないチャイムが粉々に砕いてしまった。

 隣の教室では真面目に勉強しているので、叩いて音を出してはいけないと先生は言った。みんなの手に灰色の粉が配られ、それを木琴の上から落として奏でなければならない。さらさら……。
(秋が泣いているようだ)
 誰かが、窓を開ける音が教室の隅々まで響き渡った。


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適当なレシピ

2012-05-08 18:18:10 | 忘れものがかり
魔法の皿に
葱を敷き詰めて
その上に
シーチキンを敷き詰める

魔法の皿に
適当な大きさの
葱を敷き詰めて
その上に
缶からひっくり返した
シーチキンを敷き詰める

魔法の皿に
適当な感じで
緑色の
葱を敷き詰めて
敷き詰め終わったら
今度はその上に
シーチキンを敷き詰める

魔法の皿に
冷蔵庫を開けて
取り出して
洗ったり切ったりして
準備をした葱を
葱を敷き詰めて
底がすっかり見えなくなるくらいに
葱を敷き詰めて
その上に
シーチキンを敷き詰める

魔法の皿に
良心に基いて
きちんきちんと
葱を敷き詰める
更に今度は
魂の赴くままに
愛するように
シーチキンを敷き詰める

それができたら 素敵だろうな

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未視聴事件ファイル

2012-05-08 12:45:36 | ショートピース
隠そうとしても見え透いている。深く掘った穴の中に、解決された事件を埋める。「やめときなさい。どうせ見ないんでしょう?」人の声には耳も貸さない。もう何年も、彼女はその作業を繰り返しているのだ。鼻先に土をつけながら録画ドラマを埋葬し終えた犬は、得意げに振り返った 。#twnovel

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