眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

この街の風景

2023-05-12 09:02:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
この街の歩道は広い自転車が4台並び人を追い抜く

この街のうどんは安いおにぎりとセットでワンコインを切ります

この街のレシート長い末端は隣街まで届く勢い

この街にメンズコーナーなくなった 何かいるなら Amazon で買え

この街の睡魔は強いしあわせなにゃんこと人がベンチに伸びる

この街のオレンジジュース氷なし ぬるくなっても水にはならぬ

この街の人の運動スクロール、ジャンプ、A B リセットボタン

この街のカフェは満席1杯のコーヒーおよそ2時間で飲む

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

闇の助言者

2023-05-11 20:15:00 | ナノノベル
「ねえあの人困ってるんじゃない」
 よからぬものが紛れ込んでいるこの部屋のセキュリティーはゆるゆるだった。

「何考えてるの?」
「ここで手が止まるって変じゃない?」
「手がないんじゃない?」
「明らかに変調だね」

 禁止されている助言とは違うけれど。やっぱり駄目だろう。本当のことを言ったら駄目な場面というものがある。小さな声だから許されると思っているのか。いいやささやきほど声は通るのだ。
 私は気分転換に席を離れた。指し手に窮していることは事実だった。多くを犠牲にした上で手に入るはずだった飛車を、上手く捕まえ切ることができない。この錯覚が致命的なものであっても不思議はない。

「いい手があるよ」
 帽子を深く被った男は廊下ですれ違いざまにささやいた。

「一万でどう?」

 部屋を出てもセキュリティーの甘さは変わっていない。いい手? あったとしてもそれはこの男の頭の中にではない。秘密の通信によって人知を超えた情報を持っているだけだろう。いい手かどうかは問題でなく、接触そのものが悪手になるのだ。私は一言も返さなかった。
 ハンカチで手を拭いて気持ちを落ち着かせる。錯覚のこと、飛車を手に入れることは忘れ、玉頭から攻め合いに出よう。やるだけやって、それでも駄目なら頭を下げるだけだ。

 席に戻ると相手の席に別人がかけていた。(席を間違えたか)私は何度も盤面を確認した。おかしい。やはり私の将棋に間違いない。

「不正行為が発覚しましてね」
 運営の男が言った。

 えっ? 何も。私は何もしていない。邪なものは近づいてきたけれど、私は少しも揺るがなかった。私は大いに取り乱し、存在もしない罪の言い訳を探しかけていた。

「相手の方がね」

「ああ……」

 間違えたのは相手の方か。
 冷や汗をかきながら、私は2回戦に駒を進めた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ピュア・ボール

2023-05-10 04:56:00 | グレート・ポメラーへの道
 ネズミが箸を転がして人々を大いに笑わせていた。
 羨ましい。
 どちらが?
 尊敬交じりの視線を浴びるネズミの方か、純粋に口を開き手を叩ける人の方か。どちらでもあり、どちらでもないような、複雑な感情。羨ましくて仕方がないのに、なりたいかと言えば、全力で今の自分にしがみつきたくなってしまうのだ。彼らのシンプルな仕草の中に、決して交わることなどできない。

「そろそろ僕たちの出番だ」

 モップを持って主役のネズミを追い立てる。

「もう今夜はお開きですぞ!」

 ネズミは喜ばしい運動を中断させないように逃げた。一心同体。熟練の作業を打ち負かすために、こちらもギアを上げる。怒りに憎しみを加えてモップを伸ばす。ネズミは逃げきれないとみるやウサギに転身して夜を越えた。箸はなおも自力で運動を続け、しばらくすると立ち上がって名のある牛丼屋のドアを潜った。余興を断ち切った僕の背中を、民衆の敵意が突き刺す。痛い! 敵意以上の武器が迫っている。メインストリートから離れ、僕は公園沿いの道にまで逃げた。
 歩道を転がっているのは箸ではなく、もっと純粋な形をしていた。
 独りだ。いつかの少年の足から離れたボールだろうか。

 あまりに自然で理にかなっていたから、ただ地面を転がっていくだけの運動に癒されていた。
 球体に光が射して癒しは突然かなしみを含んだ敵意に変わってしまう。これが自分なの? 誤らぬ人も変わらぬ人もいない。だけど、どうしても受け入れ難い面ばかりだった。くたびれた自分、膨らんだ自分、失われた自分、誤解された自分、歪められた自分、ねじ曲がった自分……。軌道修正。そんな言葉もあっただろうか。立ち向かうための武器は1つではとても足りない。自分を消すには素材が必要だ。正確なタッチ、物語、疾走、誤字脱字、未知との遭遇、ラジオ局、コーヒーの香り、書き殴る仕草……。いつからかお腹が痛い。いつからか愛せない。もっともっと。満たされながらすべての自分が消えていくことを願っている。もっともっと。

「他に必要なものはありますか?」

 あるに決まっているだろう。いくらでも。不満はいくらでもある。望まないことはいくらでもある。
 一度は自分を消して、昨日を消して、それから変わるのだろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポメラニスト・コンプレックス

2023-05-08 18:37:00 | グレート・ポメラーへの道
名刺代わりのホームラン
「どうしたら打てますか?」

 ミルクが落ちてコーヒーの中に溶け込んでいく。テーブルの中央に置かれたコーヒーは主役だ。コーヒーは僕の中に取り込まれて僕の一部となる。それからコーヒーを少し遠ざけるとポメラをテーブルに置いて開く。そこからしばらくコーヒーの存在は希薄になる。今度はポメラが主役だ。少しずつポメラに触れて、僕の一部はポメラの中に取り込まれていく。

「何をされているのですか?」

 正解がわからない。どうにも困った問題だ。打ち出した文字群がどのような結果に結びついたのか、そこが問題だ。将棋世界の1ページ、日経新聞の片隅、どこにも確かな座標が存在していない。浮きながら消えていくようなものばかりではないか。

「指の運動をしています」

 それが最も正確な答えだとして、他人にどのような理解を得られるというのか。
 得体の知れないポメラではなく、純粋な犬をつれていたら、もっと素直に信頼されることだろう。わかりやすい役割を帯びているほど、信頼に値するというものだ。

 ポメラを閉じてコーヒーを引き寄せる。温かい主役のおかえりだ。遠ざけて引き寄せて、閉じて開いて、主役は何度も入れ替わる。コーヒーは僕の中へ、魂はポメラの中に、僕は温まったり真っ白になったりする。営みは単純で取るに足りず、信頼を築く方法は未だ見つかっていない。息苦しい。(生きにくいな)

 ポメラは猫ほどに認知されていない。テレビで猫を見ない日があるだろうか。猫に職質をする警官がいるだろうか。(何をしていても何もしていなくても)猫は一目で猫と認めてもらうこができる。そして、猫であるということだけで、既に十分に素晴らしすぎるのだ!
 人が人に認めてもらうことは、それほど簡単ではない。(人が真っ先に疑わなければならないのも人だ)年齢は、性別は、会社は、連絡先は……。オフィス・ビルに入るというだけで、どれだけのラベルが必要なのか。

 気がついたらコーヒーカップが空っぽになっている。魂はポメラに吸い取られて、僕もすっかり無になった。あるいは、元からそうだったのかもしれない。ポメラはどこへ行くのだろう。

「ねえ、君はどこへ行きたいの?」
 ポメラのささやきに、僕の指は固まったままだった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

同形からのサムシング

2023-05-07 09:05:00 | アクロスティック・ライフ
この一手の確信が持てない
同形からのサムシング
妄想が夢と時間を吸収する
飲み切ったカップには一滴もなく
酷い手が出る予感がする


古典的な手法を用いて
道場を破ったのは
もしや伝説の
のりしお師匠
ひえーっ 強すぎるよ


献立に加わるべき
トリュフ以外のサムシング
もう飽き飽きなんだ
野いちごを摘んだり
ひょうたんから何か出ないか


これも負けあれも負け
投了もやむなし
もう指す手は一手もなく
のどを少し潤したら
広げたマスクを口に当てる

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

もう限界だ

2023-05-06 04:02:00 | アクロスティック・ライフ
転がさなければ始まらない
道理にまみれたキャリーを引いて
もう5時間も歩いてる
野宿になりそう
冷え込んできた23時のあきらめ


こんがらがった夜が深まると
とうがらしはとんがらしになった
もう限界だな
脳を心が突き放そうとして
羊たちは暴れ始めた


好天には恵まれなかったけど
土砂降りだったわけでもなく
物憂さに打たれ続けたせいだ
ノックアウト寸前でさまよい続けた
ヒューマンドキュメンタリー


凍り付くような夜には
どさん子ラーメンを食べたい
もうどうなってもかまわんさ
のりをましましにしたら最後
人でさえなくなっても

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

どら焼きをぶん投げろ

2023-05-05 09:01:00 | アクロスティック・ライフ
こしあんが廃案になったら
どら焼きをぶん投げろ
モバイル通信過信厳禁
ノルマは一日20部屋
人の仕事だと思ってるの


こんがりと夕映えが焼けたら
どら焼きをぶん投げろ
モンスターの飽和した道には
濃紺の手袋が落ちているが
拾わないね誰も


虚空を猫が横切ったら
どら焼きをぶん投げろ
もうお腹いっぱいだ
ノーモアスイーツ
非通知だったら置いておこう


公然の秘密に向いて
どら焼きをぶん投げろ
物取りばかりだな
喉が震えて訴える
ひやしあめはもうないの
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

非情桃太郎

2023-05-04 06:34:00 | アクロスティック・メルヘン
こなもんでっか
どうぞぼくにくださいだわん
もう先客がいるから
ノー!
非情な世界である


こう言ったら何だけど
どうかしてたんです
もうしませんと青鬼は誓い
濃厚なハグをした
人を許して行いを責めよだ


腰についてるそれ
どうかぼくにくださいよキー
もう決まってんだよ
ノーノーノー
酷いやキーキー


焦げ付いたそれって
泥団子でしょ
桃太郎さん時代に
乗り遅れてるんじゃない
ひよこ饅頭でも出しなって


子分が雀だけになったため
当面の間遠征は中止します
桃太郎はそう言いながら
のりしおを食べていました
悲嘆にくれて世界は目を閉じました

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

白黒プロダクション

2023-05-03 05:10:00 | アクロスティック・ライフ
事の発端に夢があって
扉の向こうには冷たい密室があった
物言えぬ圧力は
濃厚な接触と服従を
必然のように仕立てた


紅白歌合戦は
とかく青が勝利した
モノクロームのワンルームでは
ノラジョーンズがかかっていて
ヒョウは柄になく高いワインをあけた


コンプライアンスを超越した
どえらいものが駒をつくり
猛プッシュする声に
ノーと言えるものは誰もいない
酷く歪んだ世界だった


こういう先生もいたんだな
道理で武装したものたちの攻撃を
ものの10秒ではねかえしてしまう
濃霧の中に現れたそれは
一筋の光のようだった

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

もうええわ

2023-05-02 23:46:00 | アクロスティック・ライフ
言葉は美しすぎて
どこまでも観念にあふれた
もうええわ
ノートを席巻したチャット
人でなしかみんな


恋破れた瞬間は
どこか船出のようだった
もうええわ
乗り込んだ列車は
比喩的な夜を抜けてトンネルへ


交番はどっちですか?
どっちの交番です?
もうええわ
のんびりと歩いて行くよ
暇なことは罪ではない


コツコツと積み上げてきたものが
ドンジャラと崩れ落ちた
もうええわ
海苔巻きでも作って
人並みの暮らしをするよ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする