茫洋物見遊山記第142回&鎌倉ちょっと不思議な物語第303回
日蓮はおよそ20年にわたって鎌倉に滞在したが、このお寺には彼が初めて開いた法華経の道場があり、彼はこの松葉谷妙法寺の裏山の奥にある小さな庵で富士山を眺めながら修業に励んだ。
私は鎌倉に30年以上住んでいるのに、恥ずかしながらこのお寺を訪ねたのは今回がはじめてだったのだが、安国論寺に比べると地味でこぶりなのにどこか惹かれるものがあった。
とりわけ本堂の裏手にある釈迦堂とその左手にある鐘楼は見事なもので、文化年間に水戸家が建立したそうだが、江戸の建築のエッセンスが崩壊寸前の姿で現存している。
またここから本堂を見下ろす苔石段もちょっと京都の苔寺を思わせる雅を湛えていて、虚子の娘が
美しき苔石段に春惜しむ 立子
と詠み、尾崎喜八が「その土地への愛の序曲」で手放しで感嘆した気持ちが分かるような気がした。
観光客はもちろん市民からも見放されているような鄙びた趣が、私好みである。
なにゆえに君は友達の飲み残しのジュースを勝手に呑んでしまうのか情けないぞ悲しいぞ 蝶人