闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.607
妻の言い分、夫の言い分、どちらにも一理はある。質量と重心が決定的に異なっているのでなかなか調和させることが難しいのだけれど、時間の経過とともに収まるべきところへいつか収まる。そんな昭和の東京梅が丘周辺の小市民の夫婦関係を、原節子と佐野周二が巧みに演じてみせる。
しかし最後の戦いに勝利するのはやはり女性であって、胸を患い、リストラに晒されて郷里へ帰ろうと弱音を吐く夫を、紙風船を「どすこい、どすこい」とぶっ叩きながら励ます妻の男性的な意思の魅力的な発露で終わるこの映画は、やはり弱そうでもしっかり強い女の物語なのだろう。
「山の音」では酷かった水木洋子も、岸田國士のいくつかの戯曲をうまく脚色しており、ピアノ演奏を多用した斎藤一郎の音楽もまずまず。それまで陳腐な表現に終始していた成瀬の演出も、ここぞとばかりに爆発している。
なにゆえに愛国心を押しつけるのかそれは権力者の精神的「テロ」 蝶人