茫洋物見遊山記第143回&鎌倉ちょっと不思議な物語第306回
歳末の昼下がりに2つの展覧会を見物しました。
いずれも収蔵展ですが、前者は「光のある場所」、後者は「清方 新春を祝う」というおめでたいタイトルで寂しく陳列しておりました。
前者では20世紀初頭からこんにちまでの近現代美術の総覧を試みていますが、ざっと振り返って心に残っているのは高橋由一の「江の島図」、佐伯祐三の「自画像」、中西夏之の「弓型・弓ぬき」でした。
由一の絵を見て感心するのはその構成の卓抜さで、この「江の島図」の特徴は、画面右はじの漁師(横向き)をのぞく全員が、後ろ姿で描かれていること。江の島に向かって歩く群衆の中には、もしかすると若き日の子規がいたかもしれませんが、あえて後ろ姿にすることによって、彼らが向かう江の島の存在感と彼らの非在感のくっきりとしたコントラストが生まれ、それが画幅に鋭い集中と緊張をかもしだしているのです。
佐伯祐三の「自画像」では、その双眸が暗い闇に覆われており、その不吉な姿は、まるで夭折した彼のかなしみを、自身が予感しているようです。
中西夏之の「弓型・弓ぬき」は白を基調とした抽象画ですが、その「清潔で透明な無意味」が強烈な印象を残します。
鏑木清方記念美術館では、恒例の羽子板展。清方が描いた美人画を、名押絵師永井周山が加工した華麗な羽子板の逸品がずらりと並んでここだけはさながら新春の気分です。
前者は来年3月23日まで。後者は1月26日まで開催されています。
なにゆえに百円玉を製造年ごとに並べて喜んでいるのかうちの耕君 蝶人