ある晴れた日に第241回
自転車に乗ってどんどん進んでいく。
どこまで行っても道路に車はない。
道路も周囲も行けども行けども無人である。
午前10時の太陽は、17歳の少年の欲望のようにぎらついている。
走りに走り続けて正午になった。
はらっぱの向こうに一軒屋がみえてきた。
やれやれあそこで一休みと思って近ずくと、ここにも人気はなかった。
小さな膀胱がはち切れそうに膨れ上がっている。
やむえず平屋の1間に入ると真ん中に囲炉裏の灰穴があったので、そこで用を足した。
水道の水で乾き切った喉を潤し、なにか食べるものはないかと探したが、なにもなかった。
もう何十年も前に見捨てられた廃屋なのに、
水道が使えるというのは不思議だった。
ようやく元気を取り戻したので、再び元の道を南に向かって進む。
行けども行けども、何もない。
行けども行けども、誰にも会わない。
やがて陽が沈み、空がゆっくりと黄昏れると
道はふっつりと消え去り、
深い暗闇の底に私は取り残された。
なにゆえに日記に符牒をつけたるや知る人ぞ知る荷風の房事 蝶人