茫洋物見遊山記第173回&鎌倉ちょっと不思議な物語第335回
前々回に取り上げた「三郎の滝」のうえに七曲ケ谷(ななまがりやつ)という谷戸が広がっている。
「三郎の滝」となって流れ落ちる渓流を七曲川と称するが、その名の通りくねくねと蛇行する小川に沿ってやはり七曲の獣道が走っているが、ここはマムシの名所なので私たちは「蝮ケ谷」と呼んでいた。
むかし「空の名前」というベストセラーを出したカメラマンが近所に住んでいたが、彼が止せというのにこの小道に入りこんだが、しばらくするとマムシの大群に襲撃され、三脚を置き去りにしたままほうほうの態で逃げ出したことがある。
私も少年時代に丹波富士と称される弥仙山で蝶を採集していたときにマムシに襲われたことがあるが、有毒の蛇が物凄い勢いで空中を飛びながら噛みついてくるので、もう二度と経験したくないほど怖い思いをした。
この恐ろしいマムシの路の先へどんどん進んでいくと、いまは誰も通らない峠道につながって、そこをなおも直進すると小高い丘の上に廃屋があり、その近くに江戸時代の墓標が立っている。
私たちはこの廃屋を「不思議なおうち」と名付けて、よく子供たちと遊んだものだが、マムシが冬眠から覚めない間に一度再訪したいものである。

なにゆえに崎野隆一郎さんを敬うかマムシを剥いで焼いて食べてしまう 蝶人