照る日曇る日第762回
このインスクリプト版第3巻では、河出書房版の「中上健次」にも収録された「鳳仙花」を柱に、単行本「水の女」を併録している。
「水の女」は「赫髪」、「水の女」「かげろう」「鷹を飼う家」「鬼」という表題のついた5つの短編から成っているが、いずれも男と女の原始的な性愛を真正面から描いて読む者を圧倒する。
その原動力になっているのはもちろん男より女で、著者はまるで本能に突き動かされた獣のように性交に夢中になるその姿を、彼らに寄り添いながら、精巧なキャメラを構えつつ無我夢中で描写するのだが、卑猥で下品で退廃的であるはずのその行為も、その描写も、まったく卑猥で下品で退廃的ではなく、むしろ神聖にして侵すべからざる態のものへと昇華されているのが不思議である。
私は、中上健次の真骨頂は、牛の小便のように延々と続く長編よりも、構成と叙述がきりりと引き締まった短編にあると思うのだが、この「水の女」は、名作「鳳仙花」を凌ぐ傑作かもしれない。
果てしなく欲望を求めまた求め莞爾と死にゆく豚児のごとく 蝶人