
茫洋物見遊山記第174回
傾きかけた商家のお嬢さん(中村児太郎)。手代の忠七(市川門之助)と言い交わしていたのだが、んなこと委細構わず五〇〇両の結納金のかたに母親は嫁入りを決めてしまう。折良くだか悪くだか来合わせた髪結の新三(中村橋之助)が青菜に塩の二人をそそのかして、お嬢さんを自家へ連れ込んでしまう。
騙されたと知った忠七から訳を聞いた源七親分(中村錦之助)が新三の家に掛け合いに来るが、たかが一〇両で買い戻すとは馬鹿にするなと追い返されてしまう。
するとその話を聞いた大家の長兵衛(市川團蔵)がやはり新三の家に乗りこんで、十五両で手を打たせるが、それを知った源七親分が新三を待ち伏せして両者がいざ因縁のチャンチャンバラバラが始まる!というところで幕となる名人河竹黙阿弥の名作なり。
明治六年の脚本なのに、気分は完全に江戸時代。文明開化なんか無視して旧幕の古く良き時代の思い出噺に花を咲かせようとする反時代的反逆精神の発露をこの芝居に見る。
私はいつもの天井桟敷だったが、となりに座った大向こうが耳をつんざくような胴間声で「成駒屋アー!」「萬屋アー!」「三河屋アー!」と怒鳴るのには閉口した。こういうのは、小さくてもよく響く声でやってほしいものだ。
本日で千秋穐を迎えた半蔵門界隈はすでに桜が満開だった。
「成駒屋アー!」「萬屋アー!」「三河屋アー!」と有頂天にラアラア騒ぐ大向こう 蝶人