音楽千夜一夜第386回
アメリカのフィラデルフィア管弦楽団のシェフを長年務め、甘美かつ美麗芳醇なるフィラデルフィア・サウンドを醸造したオーマンディがチャイコフスキーの交響曲やバレエの名作を振ったソニーの超廉価版セットずら。
昔のソニー・コロンビアの録音はキンキンで耳触りが悪かったが、最近発売されるものはリミックスされているので聴感が抜群に向上してオーマンディ独特のフィラデルフィア・サウンドを堪能できる。
オーマンディの指揮は妙な小細工を排したオーソドックスそのものだが、チャイコフスキーの5番など歌うべきところはオケを十二分に歌わせ、その妙音の鳴り具合を指揮者と楽員全員で聴き惚れているようなゆとりすら感じさせるのが凡百のオケやコンダクターとの違い。
チャイコフスキーの音楽の本質を命懸けで追い詰めるムラヴィンスキーとレニングラード・フィルの強迫的な演奏とは百八十度対極にある別次元での名演だと思う。
「1812年」という誰が振っても最低の駄作でも、オーマンディの手にかかるとまともな序曲に聞こえてしまうから、練達の名人というものは探せばどこかにいるものなのである。
ワーグナーの「ローエングリーン」をショルテイ&シカゴ響の演奏でフォルテッシモで鳴らす土曜日の午後 蝶人