あまでうす日記

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水田宗子×辻和人対談集「白石かずこの詩を読む」(七月堂刊)を読んで

2024-11-13 11:21:27 | Weblog

水田宗子×辻和人対談集「白石かずこの詩を読む」(七月堂刊)を読んで

照る日曇る日 第2126回

詩人にして比較文学者の水田宗子さんと、わが敬愛する詩人にしてジャズ/ラテントランペッター、鋭い書評家にして怪談・幻想文学普及者でもある辻和人さんが、今年の6月に93歳で亡くなったばかりの詩人白石かずこを巡って、3回に亘る公開フォーラムで徹底的に語り合った、まことに興味深い対論の記録です。

白石かずこを巡る対談といっても、2人が好き勝手にいろんな話をするのではなく、まず辻さんが彼女の代表作の「男根」「聖なる淫者の季節」「砂族」をこれ以上ないくらい懇切丁寧に読み解き、その訓読を基軸にして、水田さんが主としてフェミニズム的な視点から感想や批評を述べ、それを受けた辻さんが、誰にもできないくらい柔軟かつ屈曲に富んだ多層的な展開や発展、時には驚くべき跳躍を見せて読者を驚嘆させます。

実際の辻さんはドラマ「半沢直樹」の主役、堺雅人によく似た(正確には、堺選手をわずかに凌ぐ)好男子なのですが、実は観念的で抽象的な男性作家の小説や漫画よりも、より現実的、肉体的に人間の本質を描破しているという女性作家の作物に親しみ、好意を抱いてきたというある意味では「特異な」男性なので、お相手の水田さんが、彼を女性に偏見と差別意識を持つ旧来の浅薄な男性作家や批評家と見做して挑発しにかかると、水田さんよりもある意味では「女性的な」見解が撃ち返されるのでいささか勝手が違い、思わずたじろいでしまうところもあって、大層面白かったのです。

「この本は、白石かずこを含む女性の作家たちの仕事を再評価する側面もあります。男性の作家が主に観念的な「永遠」の探求に勤しんでいたのに対し、女性の作家たちは、主に現実の生きる時間に根差した「long」に重きを置いていました。私は、白石さんの詩が、現実を生きる固有の身体を基点としたものであることを強調し、代替不可能な固有の身体の在りようを基礎とする文学の再評価を行ないたいと思いました」と、お辻さんは、ご自分の言葉で総括されていますが、私としては「下手な小説や評論より何層倍もエキサイテイングな対論集」よして江湖の読書子に「推し」たいと存じます。

川崎のゆきおも死んでこの国も私も一入ダウニーになる 蝶人

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