これでも詩かよ 第326回
極楽の昼下がり、お釈迦様は長い、長いお昼寝から覚めて、遥か下方の地上を眺めていると、おりしもハロウィンで賑わう、渋谷のスクランブル交差点が見えました。
と、ふとあることを思いついたお釈迦様は、女郎蜘蛛の犍陀多を呼びました。
「これ犍陀多や、あのスクランブル交差点全体を覆うような、大きな、大きな巣をかけなさい」
「はい」
と答えた犍陀多が、お釈迦様の仰せの通りに、天上から大きな、大きな蜘蛛の巣をふんわりと投げかけましたが、せわしなく交差点を行き来する人々の目には、もちろん見えません。
さうして、この見えない蜘蛛の巣のベールの下を通る人は、男も、女も、男でも女でもない人たちも、大人も、子供も、みんな揃って尻子玉を引っこ抜かれてしまいました、とさ。
渋谷のスクランブル交差点だけではありません。
お釈迦様は犍陀多に命じて、外人観光客で賑わう鎌倉の小町通りでも、アメリカNYのブロードウエイでも、北京の天安門広場でも、ロンドンのピカデリー・サーカスでも、パリのシャンゼリゼ通りでも、こっそり蜘蛛の巣のベールをかけて、何千、何万、何億個の尻子玉を引っこ抜かれてしまいました。
五色の蓮の花が咲き乱れるここ極楽では、大きな蜘蛛の巣のあちこちにぶら下がった無数の尻子玉が、ぶらぶらと風に揺られています。
軽々に死にたいなどと言う勿れ生きたい生きたいと願いて逝きしを 蝶人