照る日曇る日 第1349回
上巻に引き続いて古代カルタゴと蛮族!たちの波乱万丈、気もない油断も隙もない目くるめく様な大争闘を、稀代の美少女サラムボーをセンターに立たせて、天才作家フローベールが踊るがごとく、歌うがごとくに描く。
ろうたけた美女の宮殿の豪華絢爛や美貌の様相を舐めるがごとく描く筆の冴えも素晴らしいが、特にすごいのは両軍の戦闘の精細な記述で、サラムボーの父ハミルカルの機略に陥れられて袋のネズミとなった蛮族軍の飢餓地獄の記述は、思わず背筋が寒くなるような凄惨さである。
このわが「平家物語」や「太平記」に比すべき恋と冒険の血沸き肉躍る華麗な一大軍記絵巻が、かの「ブヴァールとペキュシェ」や「ボヴァリー夫人」と同じ作者の筆になるとはお釈迦様でも気が付かないだろうが、この視界の広さと見事な広角打法こそがギュスターヴ選手ならではのユニークな文学世界なのである。
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「未来」てふ定かならざる言霊に縋りつつけふも歌を詠む人 蝶人