蝶人物見遊山記 第316回
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今回は、舞囃子が金春流による「経政」、喜多流の「三輪」宝生流の「熊野」、観世流の「船弁慶」、そして和泉流の狂言「仏師」を挟んでの能は「乱」という多彩な演目でした。
舞囃子では冒頭の「経政」の地謡にわが柏崎嬢の姿も見受けられましたが、全体を通じていちばん楽しめたのは「船弁慶」。そしてシテで印象に残ったのは、「三輪」の谷友矩選手でした。25歳の若さながら声も動きも姿もくっきり。これからが楽しみな人材です。
「狂言」の「仏師」は外国人がみても笑える快作ですが、アドに予定された河野選手の代わりに別の人が好演していました。なにか事故があったのかと心配です。
トリの観世流による「乱」では、シテの浅見重好選手の舞が圧巻。酔っぱらった猩猩がご機嫌で踊りまくるのですが、私がこれまでに能や歌舞伎や仕舞で瞥見したダンスの中でも破格の素晴らしさに感嘆しました。
踊りというものは、どんな名人のものでも、その人間が踊らなけれなばらないのでいま踊って見せているという側面が透けて見えてしまうのですが、この日の浅見選手は、もはやそういう自意識から解き放たれ、「無為にして化す」かのような超自然体の舞が、昼下がりの国立能楽堂に顕現していたのでした。
一同に揃いて興を尽くしたり観世宝生喜多金春 蝶人