ジェイン・オースティン著・阿部知二訳「エマ」を読んで
漱石が「写実の泰斗」と激賞したオースティンの家庭小説の代表作を堪能する。
南イングランドの所謂上流階級の裕福な家庭に育ち、14歳の時にフランス革命の騒乱を空耳のように聞きながら、田園地帯でのんびり育ったこの大作家の小説は、まるでハイドンの中期の充実した交響曲群を注意深く聴いているように面白い。
どの小説もたいがい彼女自身を思わせる女主人公が、親兄弟や近隣の村社会で暮らしながら、理想の伴侶を求めてやっさもっさする、いうてみれば小津の後期映画のイングランド版のようなあらすじなのだが、
これがねえ、目の前に賢いヒロインがいて、アホな男女の生き馬の目を抜くようなあざやかな会話の応酬と、鋭い人間観察が牛の咀嚼のように延々と続いていくのである。さながら紫式部かプルーストの小説のように。
まあおらっちなんかが下手なお目汚しをするよか、まだの人は騙されたと思って一度手に取ってくださいな。
この国は人の代わりに鶏を躊躇はせずに皆殺しする 蝶人