照る日曇る日 第1299回
関東大震災直後の1923年9月16日、大杉栄、大杉の妹、橘あやめの子である宗一と共にわずか28歳の若さで非業の死を遂げたひとりの女性が遺した創作、評論、随筆、書簡を、彼女の全集から手際よくチョイスした好箇の読み物である。
17歳で故郷福岡の今宿を出て、貧苦と差別に抗しながら社会批判に目覚め、「青鞜」の平塚雷鳥、辻潤、大杉栄等との出会いを通じて己を磨きあげ、短くも美しく燃えた奇跡の人の宝石のように鮮やかな軌跡を、懐かしく偲ぶことができる。
とりわけ印象に残るのは、彼女が目指す「無政府共産主義」の理念の具体的な裏付けとして郷里今宿における民衆主体の「組合」活動に求めたこと。彼女は、江戸時代から連綿として続く村人たちの、警察も国家権力も無関係な自主的自律的な共同体運営、社稷を配した伝統的なゲマインシャフトの内部に、無政府主義の新しい源泉を見出したのである。
そして巻末に置かれた大杉栄との愛の往復書簡を読む者は、無辜の民を拉致して暴行、拷問、虐殺に至らしめたかの甘粕大尉とその一味の悪魔のごとき所業に、改めて怒りを覚えるであろう。
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マスクしてデモするだけでおまわりに逮捕されちゃうそんなのありかよ 蝶人