闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.543
1850年にドレスデンからデッセルドルフに移住した頃のシューマン夫妻と若きブラームスの交渉を描いている。ヒロインのクララは実に美人で豊かな胸の持ち主のように描かれているので、画面を眺めているだけで快感があるが、夫のロバートはもっとハンサムな役者を使うべきだろう。
17歳年上でロベルトと8人の子をなしたクララをまるで天使のようにあがめ、「奴隷のように仕えた」というブラームスも、後年のでっぷり肥った重厚長大な髭オヤジの面影のかけらもなく、やたらひょうきんで軽佻浮薄な恋する若者として描かれている点にも違和感がある。
もっともこの2人の恋愛関係にかんする事実や証言はまるで残されていないそうなので、この映画自体が虚構そのものと評してもよろしいのである。
しかしシューベルトと同様梅毒が原因で精神病院で死ぬロバートが、あまりにも頭痛が酷いのでアヘンチンキに依存したり、ライン河に投身するくだりなどは、うむ、いかにもと思わせる。
ロベルトは指揮が下手くそだったから、ようやく完成した交響曲3番「ライン」の初演を、滅茶苦茶な棒を振る夫の前で、妻のクララがまるで二人袴のように上手に指揮するくだりも、聾になったベートーヴェンのそれを思わせ、真に迫って面白かった。
なお監督のヘルマ・サンダース=ブラームスは、作曲家ブラームスの末裔らしく、ラストでクララが彼の最初のピアノ協奏曲を弾くあたりのキャメラにその思い入れが感じられる。
ハイドンの一撃に震撼させられしはいつの日かさらばわが青春の東京カルテット 蝶人