あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

前川佐美雄歌集「捜神」を読んで

2020-02-13 11:04:41 | Weblog
照る日曇る日 第1352回

歌を読む前に、ユニークな題名に躓く。神はとっくの昔に死んだはずなのに、いまなおそれを追い求めるというのか?

歌は強固な言語の鎧に包まれており、その生また狷介であるようで、私のごとき軽薄人間にはなかなか近づきがたい。

みづからを足蹴になして苦しみし二十年前と今のおのれと
あな低く卑しくなりし顔よなとあたりを見ればわれさへありて
かくありてわれは亡びむほろびゆく明日の支度も悲し世の中なか

そもそも敗戦直後の農地改革で広大な土地をことごとく国に没収されたからには、その後の人生を口笛を吹きながら朗らかに生きていけようはずもないだろう。

無一物になりて故郷に梅花を見る農地は全部解放したり
しばしばも夜逃げせし親の子なりしが戦後産をなしてあひに来たれる
笠置シズ子があばれ歌ふを聴きゐれば笠置シズ子も命賭けゐる

戦後のどさくさに抗いながら命賭けで生きている作者にして初めて笠置シズ子の命賭けがくっきりと聞き取れたのである。

ひんがしは川なり西は森みなみは野北は山にして骨を埋めむ
さまざまのよき死にをして終りたる昔びと思へみな凄まじき
戦争の餓鬼がまた来る人類の血をあますなく欲る餓鬼が来る

あおによし奈良の都で平和な晩年を迎えたいと作者は望んだろうが、その願いは叶わず、1970年、67歳にして作者は茅ケ崎に転居。第2の人生に痩身を投じていくのであった。
 「さまよえるオランダ人」にさも似たり世界をさすらう大型クルーズ 蝶人

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