安保改定60年 第3部① 「思いやり」開始43年 米軍に税金24兆円
この国はいったい、誰を思いやっているのか―。在日米軍の活動経費のうち、日本側負担分(在日米軍関係経費)が、米軍「思いやり予算」の計上が始まった1978年度から2020年度までの累計で、約23兆9500億円に達することが分かりました。外務省・防衛省の資料に基づいて本紙が計算しました。世界に例のない異常な経費負担の構造をシリーズで検証していきます。
基地の地代や補償などを除き、「日本に米軍を維持するためのすべての経費は、日本に負担をかけないで米国が負担する」―。日米地位協定24条には、こう明記されています。
1.4兆円に
これを素直に解釈すれば、日本が負担するのは基地の地代や地主への補償、周辺自治体への交付金などに限られるはずです。しかし、日本政府は米側の理不尽な要求に屈し続け、①「思いやり予算」(在日米軍駐留経費負担、78年度~)②「SACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)経費」(96年度~)③「在日米軍再編経費」(名護市辺野古の新基地建設など、2006年度~)という協定上も義務のない費目をなし崩し的に拡大。在日米軍関係経費は年8000億円規模まで膨張しました。
とりわけ、ここ数年は辺野古新基地建設費が大幅に増えており、経費負担を引き上げる最大の要因になっています。これまでに4236億円が計上されていますが、沖縄県は2兆5500億円かかると試算しています。
ボルトン前米大統領補佐官(国家安全保障担当)が6月に発売した回顧録で、トランプ米大統領が日本に「米軍経費年80億ドル」を要求していると暴露し、衝撃を与えました。
トランプ氏が念頭に置いているのは、来年3月に期限を迎える現行の「思いやり予算」特別協定です。同協定では、年間おおむね2000億円、5年で1兆円の支払いを定めていますが、これを4・5倍に拡大しようというものです。
仮にこの要求が通れば、年間約2000億円の「思いやり予算」が8500億円になり、在日米軍関係経費は総額1兆4000億円という、途方もない金額になります。
国民こそ
米軍「思いやり予算」拡大の一方、政府は1981年、「臨調行革」路線を持ち込み、医療・福祉・教育切り捨てに乗り出しました。新型コロナウイルスの感染拡大で苦難に直面する医療や国民生活を支援するため、かつてない財政出動が求められています。辺野古新基地建設も米軍「思いやり予算」も増額ではなく停止すべきです。思いやるべきは国民です。
米軍ぬきの安全保障戦略描けず
「思考停止」に陥り負担膨張
米軍への経費負担は日米安保体制の発足と同時に始まりました。
1952年4月28日に発効した旧日米安保条約に基づく日米行政協定25条に、米軍の輸送や役務・物資調達のため年1億5500万ドル相当の負担が明記されました。「防衛分担金」と呼ばれ、政府は53年度に620億円を計上。56年度までに2655億円を計上しています。
ただ、米軍への過剰な経費負担に国民の批判が集中。60年1月の安保改定に伴って締結された日米地位協定では、「防衛分担金」制度は廃止され、地代や補償、自治体への交付金などに限定しました。
在日米軍関係経費の構造
7回延長
しかし、沖縄返還協定の交渉に関する71年6月9日の日米外相会談で、米側は表向きの返還費用3億2000万ドルとは別に、基地改修費6500万ドルなどを日本側に負担させるため、地位協定24条の「リベラルな解釈」を要求。国会で問題になった際、大平正芳外相(当時)は、地位協定の「リベラルな解釈」を「理解できる」と述べました(73年3月13日、衆院外務委員会)。これが、地位協定の解釈拡大による「思いやり予算」の源流といえるものです。
米側は77年、「円高・ドル安」を口実に、基地従業員の労務費分担を要求。福利費62億円の負担を合意し、78年度予算に計上されました。「思いやり予算」の出発点です。
ところが米側はそのわずか18日後、次の要求に踏み出しました。
在日米大使が本国に送った78年1月9日付公電は、「『大平解釈』が日本側で支配的になっている」とした上で、「われわれは追加的な計画、とくに住宅を日本側に提案するよう薦める。日本側がさらなる支援に対価を払うことは可能だ」と述べています(米研究機関ナショナル・セキュリティー・アーカイブ)。米側の狙い通り、日本は79年度から施設整備に着手。住宅や学校、娯楽施設、さらに滑走路や埠頭など戦闘関連施設まで着手しました。
在日米軍再編経費でつくられた米軍住宅地区「アタゴヒルズ」=山口県岩国市
「思いやり予算」で建設された沖縄・嘉手納基地のシェルター
土砂投入が強行される辺野古沿岸=2019年12月13日、沖縄県名護市(小型無人機で撮影)
やがて、「リベラルな解釈」さえ限界に達し、87年度からは「思いやり予算」特別協足を締結。①基地従業員の基本給②光熱水費③訓練移転費―と拡大しました。特別協定について、政府は「特例的、限定的、暫定的」としていますが、現在まで7回、延長を繰り返しています。
米国は95年、日本を含む同盟国による経費負担を「共同防衛」のための「責任分担」だとして正当化。同年から2004年まで「共同防衛に対する同盟国の貢献度」報告を公表し、「貢献度」を競わせてきました。
その中にあって、日本は労務費、施設建設費、光熱水費などの「直接支援」が3228億謎で、2番目に多い韓国(486億が)の約6・6倍と突出しています。(04年版)
「貢献度報告」は現在、刊行されていませんが、韓国政府の12年資料によれば、日本は4053億円。2番目に多い韓国(770億円)の5・3倍で傾向は変わっていません。
96年度から計上されたSACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)経費は、米軍経費負担を新段階に引き上げました。沖縄の少女暴行事件を逆手に取り、「基地負担軽減」の口実で最新鋭の基地を建設するというものです。これが辺野古新基地問題の発端であり、2006年度から始まった在日米軍再編経費に引き継がれます。
米軍再編では岩国基地の滑走路沖合移設、国際的にも例のない、米領内(グアム)での基地建設など、「総額3兆円」とも言われる巨大な事業が盛り込まれ、米軍への経費負担が質量ともに飛躍しました。
こうして、地位協定にさえ規定されていない経費負担は、出発点の62億円から、今日では年間4000億円、累計で10兆円近くまで膨れ上がったのです。
抑止力?
日本はなぜ、これだけ米国言いなりに経費負担を拡大してきたのか。防衛省は、日本に対する武力攻撃が発生したとき、日米安保条約5条に基づいて共同対処を迅速に行うために米軍の駐留が不可欠だとしています。
しかし、在日米軍の大半は空母遠征打撃群や海兵遠征軍など、「日本防衛」とは無縁の遠征部隊で構成されています。朝鮮半島、インドシナ、中東への派兵を繰り返し、現在の最大の戦略目標は南シナ海での「中国抑止」です。日本政府はその足場を提供しているにすぎません。
それでも、政府は、在日米軍は「抑止力」であり、駐留米軍ぬきの安全保障戦略を描けないという「思考停止」に陥っています。とりわけ安倍晋三首相の日米同盟依存は歴代首相の中でも突出しています。そこにつけこみ、「日本からの米軍撤退」でどう喝し、駐留経費の大幅増を勝ち取ろう―。そう考えたのが、ドナルド・トランプ氏でした。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年7月20日付掲載
日米安保条約でも地位協定でも義務付けられていない「思いやり予算」
1978年に始まって43年間で24兆円。
住宅や学校、娯楽施設、さらに滑走路や埠頭など戦闘関連施設なども含まれます。
この国はいったい、誰を思いやっているのか―。在日米軍の活動経費のうち、日本側負担分(在日米軍関係経費)が、米軍「思いやり予算」の計上が始まった1978年度から2020年度までの累計で、約23兆9500億円に達することが分かりました。外務省・防衛省の資料に基づいて本紙が計算しました。世界に例のない異常な経費負担の構造をシリーズで検証していきます。
基地の地代や補償などを除き、「日本に米軍を維持するためのすべての経費は、日本に負担をかけないで米国が負担する」―。日米地位協定24条には、こう明記されています。
1.4兆円に
これを素直に解釈すれば、日本が負担するのは基地の地代や地主への補償、周辺自治体への交付金などに限られるはずです。しかし、日本政府は米側の理不尽な要求に屈し続け、①「思いやり予算」(在日米軍駐留経費負担、78年度~)②「SACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)経費」(96年度~)③「在日米軍再編経費」(名護市辺野古の新基地建設など、2006年度~)という協定上も義務のない費目をなし崩し的に拡大。在日米軍関係経費は年8000億円規模まで膨張しました。
とりわけ、ここ数年は辺野古新基地建設費が大幅に増えており、経費負担を引き上げる最大の要因になっています。これまでに4236億円が計上されていますが、沖縄県は2兆5500億円かかると試算しています。
ボルトン前米大統領補佐官(国家安全保障担当)が6月に発売した回顧録で、トランプ米大統領が日本に「米軍経費年80億ドル」を要求していると暴露し、衝撃を与えました。
トランプ氏が念頭に置いているのは、来年3月に期限を迎える現行の「思いやり予算」特別協定です。同協定では、年間おおむね2000億円、5年で1兆円の支払いを定めていますが、これを4・5倍に拡大しようというものです。
仮にこの要求が通れば、年間約2000億円の「思いやり予算」が8500億円になり、在日米軍関係経費は総額1兆4000億円という、途方もない金額になります。
国民こそ
米軍「思いやり予算」拡大の一方、政府は1981年、「臨調行革」路線を持ち込み、医療・福祉・教育切り捨てに乗り出しました。新型コロナウイルスの感染拡大で苦難に直面する医療や国民生活を支援するため、かつてない財政出動が求められています。辺野古新基地建設も米軍「思いやり予算」も増額ではなく停止すべきです。思いやるべきは国民です。
米軍ぬきの安全保障戦略描けず
「思考停止」に陥り負担膨張
米軍への経費負担は日米安保体制の発足と同時に始まりました。
1952年4月28日に発効した旧日米安保条約に基づく日米行政協定25条に、米軍の輸送や役務・物資調達のため年1億5500万ドル相当の負担が明記されました。「防衛分担金」と呼ばれ、政府は53年度に620億円を計上。56年度までに2655億円を計上しています。
ただ、米軍への過剰な経費負担に国民の批判が集中。60年1月の安保改定に伴って締結された日米地位協定では、「防衛分担金」制度は廃止され、地代や補償、自治体への交付金などに限定しました。
在日米軍関係経費の構造
在日米軍再編経費 | 米軍基地『移設』(辺野古新基地など)、自衛隊司令部移転、米軍再編交付金など |
SACO関係経費 | 軍基地『移設』(高江ヘリパッドなど)、訓練移転など |
思いやり予算(在日米軍駐留経費負担)(特別協定分) | ・労務費(福利費)、提供施設整備(FIP) ・労務費(基本給)、光熱水費、訓練移転 |
提供普通財産借り上げ資産 | 国有地の賃料 |
その他(総務省、厚生労働省) | 基地交付金、調整交付金など |
在日米軍駐留経費 | 周辺対策(防音など)、民公有地の賃料、移転、その他(漁業補償など) |
7回延長
しかし、沖縄返還協定の交渉に関する71年6月9日の日米外相会談で、米側は表向きの返還費用3億2000万ドルとは別に、基地改修費6500万ドルなどを日本側に負担させるため、地位協定24条の「リベラルな解釈」を要求。国会で問題になった際、大平正芳外相(当時)は、地位協定の「リベラルな解釈」を「理解できる」と述べました(73年3月13日、衆院外務委員会)。これが、地位協定の解釈拡大による「思いやり予算」の源流といえるものです。
米側は77年、「円高・ドル安」を口実に、基地従業員の労務費分担を要求。福利費62億円の負担を合意し、78年度予算に計上されました。「思いやり予算」の出発点です。
ところが米側はそのわずか18日後、次の要求に踏み出しました。
在日米大使が本国に送った78年1月9日付公電は、「『大平解釈』が日本側で支配的になっている」とした上で、「われわれは追加的な計画、とくに住宅を日本側に提案するよう薦める。日本側がさらなる支援に対価を払うことは可能だ」と述べています(米研究機関ナショナル・セキュリティー・アーカイブ)。米側の狙い通り、日本は79年度から施設整備に着手。住宅や学校、娯楽施設、さらに滑走路や埠頭など戦闘関連施設まで着手しました。
在日米軍再編経費でつくられた米軍住宅地区「アタゴヒルズ」=山口県岩国市
「思いやり予算」で建設された沖縄・嘉手納基地のシェルター
土砂投入が強行される辺野古沿岸=2019年12月13日、沖縄県名護市(小型無人機で撮影)
やがて、「リベラルな解釈」さえ限界に達し、87年度からは「思いやり予算」特別協足を締結。①基地従業員の基本給②光熱水費③訓練移転費―と拡大しました。特別協定について、政府は「特例的、限定的、暫定的」としていますが、現在まで7回、延長を繰り返しています。
米国は95年、日本を含む同盟国による経費負担を「共同防衛」のための「責任分担」だとして正当化。同年から2004年まで「共同防衛に対する同盟国の貢献度」報告を公表し、「貢献度」を競わせてきました。
その中にあって、日本は労務費、施設建設費、光熱水費などの「直接支援」が3228億謎で、2番目に多い韓国(486億が)の約6・6倍と突出しています。(04年版)
「貢献度報告」は現在、刊行されていませんが、韓国政府の12年資料によれば、日本は4053億円。2番目に多い韓国(770億円)の5・3倍で傾向は変わっていません。
96年度から計上されたSACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)経費は、米軍経費負担を新段階に引き上げました。沖縄の少女暴行事件を逆手に取り、「基地負担軽減」の口実で最新鋭の基地を建設するというものです。これが辺野古新基地問題の発端であり、2006年度から始まった在日米軍再編経費に引き継がれます。
米軍再編では岩国基地の滑走路沖合移設、国際的にも例のない、米領内(グアム)での基地建設など、「総額3兆円」とも言われる巨大な事業が盛り込まれ、米軍への経費負担が質量ともに飛躍しました。
こうして、地位協定にさえ規定されていない経費負担は、出発点の62億円から、今日では年間4000億円、累計で10兆円近くまで膨れ上がったのです。
抑止力?
日本はなぜ、これだけ米国言いなりに経費負担を拡大してきたのか。防衛省は、日本に対する武力攻撃が発生したとき、日米安保条約5条に基づいて共同対処を迅速に行うために米軍の駐留が不可欠だとしています。
しかし、在日米軍の大半は空母遠征打撃群や海兵遠征軍など、「日本防衛」とは無縁の遠征部隊で構成されています。朝鮮半島、インドシナ、中東への派兵を繰り返し、現在の最大の戦略目標は南シナ海での「中国抑止」です。日本政府はその足場を提供しているにすぎません。
それでも、政府は、在日米軍は「抑止力」であり、駐留米軍ぬきの安全保障戦略を描けないという「思考停止」に陥っています。とりわけ安倍晋三首相の日米同盟依存は歴代首相の中でも突出しています。そこにつけこみ、「日本からの米軍撤退」でどう喝し、駐留経費の大幅増を勝ち取ろう―。そう考えたのが、ドナルド・トランプ氏でした。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年7月20日付掲載
日米安保条約でも地位協定でも義務付けられていない「思いやり予算」
1978年に始まって43年間で24兆円。
住宅や学校、娯楽施設、さらに滑走路や埠頭など戦闘関連施設なども含まれます。