内部留保 コロナ禍で増加 危機でも社会に還元しない大企業
上場企業の2020年3月期決算が出そろいました。
マスメディアは今年1~3月の四半期の業績が新型コロナ危機の中で、製造業、非製造業ともに赤字となったことをクローズアップしています。
しかし、1年間の通期決算の全体について見ると、上場企業の最終損益は赤字ではなく、約3割の減益です。業績が悪化したとはいえ最終損益は20兆円を超える黒字を確保しており、企業の財務が大きく傷んだわけではありません。
そのことは、コロナ禍の中でも、内部留保が大幅に増加していることを見ても分かります。財務省の法人企業統計によると、20年3月末の大企業(資本金10億円以上、保険・金融業を含む約5800社)の公表内部留保(利益剰余金)は、前年同期と比べて19兆円も増え、309兆円に達しました。
ことは、バブル崩壊後の1990年代にもありました。この時と同様に今回も、大企業は危機に備えた蓄積を優先させたと考えられます。
業種による違いはありますが、全体的にはコロナ危機を乗り越えるのに十分な内部留保が蓄積されています。内部留保は危機に備えるためだというなら、かつてない危機に直面している今こそ内部留保の出番です。

大企業の内部留保はさまざまな資産に形を変えているため、すべてを活用することはできませんが、換金可能な資産も十分にあります。その一部を取り崩して国民のために活用すべきです。
グラフは大企業(過去のデータと比較可能な金融・保険業を除く約5千社)の公表内部留保と、換金可能な資産の推移を示しています。
換金可能な資産(20年3月末)は、現金・預金72兆円、有価証券9兆円。投資有価証券(285兆円)の多くは子会社への投資ですが、換金可能な金融投資も何割か含まれています。
大企業は「カネ余り」と報じられているように、膨大な内部留保を換金可能な資産として保有しているのです。
☆☆☆
しかし、多くの大企業は社会のために内部留保を取り崩そうとはせず、自社株買いに投入しようとしています。
自社株買いは自社の株を買って株価を上げ、大株主に利益を還元する方策です。コロナ禍の中で欧州などでは自社株買いを禁止・抑制する政策も取られているのに、日本では放任されています。大株主への奉仕ではなく、雇用の維持や賃金の手当て、下請け中小企業への給付などにこそ内部留保を活用すべきです。
内部留保は21世紀に入って急激に増加しました。90年代末からの新自由主義的な政策による人件費の削減、消費税増税とセットにされた法人税減税の結果です。労働者の犠牲と国民の負担によって大企業内部に積み上がった富を、今こそ国民のために役立てることが求められます。
小栗崇資(おぐり・たかし 駒澤大学名誉教授)
「しんぶん赤旗」日曜版 2020年7月5日付掲載
株式会社は株主に対する責任があるため、内部留保を一律に賃金や下請けに活用できない制限はあります。
そこは、内部留保になる前に、法律による規制で賃金水準のアップ、下請け単価のアップを。もちろん、自社株買いの禁止・抑制はすべき。
上場企業の2020年3月期決算が出そろいました。
マスメディアは今年1~3月の四半期の業績が新型コロナ危機の中で、製造業、非製造業ともに赤字となったことをクローズアップしています。
しかし、1年間の通期決算の全体について見ると、上場企業の最終損益は赤字ではなく、約3割の減益です。業績が悪化したとはいえ最終損益は20兆円を超える黒字を確保しており、企業の財務が大きく傷んだわけではありません。
そのことは、コロナ禍の中でも、内部留保が大幅に増加していることを見ても分かります。財務省の法人企業統計によると、20年3月末の大企業(資本金10億円以上、保険・金融業を含む約5800社)の公表内部留保(利益剰余金)は、前年同期と比べて19兆円も増え、309兆円に達しました。
ことは、バブル崩壊後の1990年代にもありました。この時と同様に今回も、大企業は危機に備えた蓄積を優先させたと考えられます。
業種による違いはありますが、全体的にはコロナ危機を乗り越えるのに十分な内部留保が蓄積されています。内部留保は危機に備えるためだというなら、かつてない危機に直面している今こそ内部留保の出番です。

大企業の内部留保はさまざまな資産に形を変えているため、すべてを活用することはできませんが、換金可能な資産も十分にあります。その一部を取り崩して国民のために活用すべきです。
グラフは大企業(過去のデータと比較可能な金融・保険業を除く約5千社)の公表内部留保と、換金可能な資産の推移を示しています。
換金可能な資産(20年3月末)は、現金・預金72兆円、有価証券9兆円。投資有価証券(285兆円)の多くは子会社への投資ですが、換金可能な金融投資も何割か含まれています。
大企業は「カネ余り」と報じられているように、膨大な内部留保を換金可能な資産として保有しているのです。
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しかし、多くの大企業は社会のために内部留保を取り崩そうとはせず、自社株買いに投入しようとしています。
自社株買いは自社の株を買って株価を上げ、大株主に利益を還元する方策です。コロナ禍の中で欧州などでは自社株買いを禁止・抑制する政策も取られているのに、日本では放任されています。大株主への奉仕ではなく、雇用の維持や賃金の手当て、下請け中小企業への給付などにこそ内部留保を活用すべきです。
内部留保は21世紀に入って急激に増加しました。90年代末からの新自由主義的な政策による人件費の削減、消費税増税とセットにされた法人税減税の結果です。労働者の犠牲と国民の負担によって大企業内部に積み上がった富を、今こそ国民のために役立てることが求められます。
小栗崇資(おぐり・たかし 駒澤大学名誉教授)
「しんぶん赤旗」日曜版 2020年7月5日付掲載
株式会社は株主に対する責任があるため、内部留保を一律に賃金や下請けに活用できない制限はあります。
そこは、内部留保になる前に、法律による規制で賃金水準のアップ、下請け単価のアップを。もちろん、自社株買いの禁止・抑制はすべき。