どうみるデジタル関連法案① 標準化システム押し付け
国会で審議が始まったデジタル関連法案。国や企業が個人情報保護などをないがしろにしたまま、行政の保有する巨大な個人データの利活用を広げる内容です。行政法が専門の龍谷大学の本多滝夫教授に聞きました。(土屋知紀)
龍谷大学 本多滝夫教授に聞く
ほんだ・たきお 1958年生まれ。龍谷大学法学部教授。現在、同大学法学部長。専門は行政法。共著に『地方自治法と住民判例と政策』『「公共私」「広域」の連携と自治の課題』。
自治権を侵害
―関連法案の柱となる「デジタル社会形成基本法案」は、国と自治体の情報システムの共同化・集約を進めるとしています。
自治体の業務に利用する情報システムを標準化、統一しょうとするものです。「地方公共団体情報システム標準化法案」もかかわってきます。法案が成立すれば国民健康保険など対象17業務(別項)のシステムは、国の定める標準化基準に適合するものにしなければならなくなります。
標準化17業務 児童手当、住民基本台帳、選挙人名簿管理、固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税、就学、国民健康保険、国民年金、障害者福祉、後期高齢者医療、介護保険、生活保護、健康管理、児童扶養手当、子ども・子育て支援
政府は、これまで各自治体が住民福祉の増進のために改修を進めてきた独自の業務システムではなく、国が立ち上げる全国規模のクラウド上に展開する標準化された情報システムを自治体に使わせようとしています。クラウドとはインターネットなどを利用して情報やサービスを共有する仕組みです。
すでに複数の自治体とクラウドシステムを利用しているある町では、「3人目の子どもの国保税免除を」との要望に対し、町長が町独自にシステムを仕様変更できないと答弁しました。全国でこのような事が懸念されます。
法案の7条3項には、標準化基準を定める際に一応、自治体の意見を反映させる必要な措置を講じるとあるので、自治体の意見を聞き入れる制度をどうするかが問われます。
自治体が標準化基準に適合しないシステムを採用する場合には、新設されるデジタル庁の大臣である内閣総理大臣が、地方自治法245条5項に基づいて「是正の要求」という形で標準化システムを押し付ける可能性も否定できません。
これまで内閣総理大臣が自治体の事務に直接関与する場合は、かなり限られていましたが、今回の関連法案で、国が地方自治に介入する手がかりを与えることになるのです。
結局、国の「標準化システム」を押し付けることにより、自治体が持つ自主立法権などの団体自治が失われ、それに応じて住民が物事を自ら決める住民自治のプロセスが欠けていきます。自治体の自治権への侵害です。
仕組みなくす
―関連法案には国と自治体の個人情報保護体制を統合していく内容も盛り込まれています。
狙いは企業が個人情報を利活用しやすくすることです。
行政がもつ個人情報を匿名化(個人を識別できないように加工した情報)し、民間企業に提供することをオープンデータ化と言います。現在、全国の自治体のうち匿名化条項を持っているのはわずか11自治体にとどまります。
企業が住民情報を利活用してスーパーシティやスマートシティをつくろうとしても、自治体は情報を提供できません。
自治体が持つ住民の個人情報を企業が自由に使うためには、常に情報連携(オンライン結合)できることが必要です。現行の自治体の個人情報保護条例は多くの場合「オンライン結合」を制限しているため、オンライン結合するためには各自治体の個人情報保護審議会などに諮問しなければなりません。これでは企業にとっては時間もかかるし面倒なため、この仕組みをなくすというのです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月18日付掲載
「デジタル社会形成基本法案」は、国と自治体の情報システムの共同化・集約を進めると。
効率が良くなるように見えますが、自治体が持つ自主立法権などの団体自治が失われ、それに応じて住民が物事を自ら決める住民自治のプロセスが欠けていきます。
つまり、自治体独自の医療費無料化とか学費無料化などの施策が制限されることになります。
国会で審議が始まったデジタル関連法案。国や企業が個人情報保護などをないがしろにしたまま、行政の保有する巨大な個人データの利活用を広げる内容です。行政法が専門の龍谷大学の本多滝夫教授に聞きました。(土屋知紀)
龍谷大学 本多滝夫教授に聞く
ほんだ・たきお 1958年生まれ。龍谷大学法学部教授。現在、同大学法学部長。専門は行政法。共著に『地方自治法と住民判例と政策』『「公共私」「広域」の連携と自治の課題』。
自治権を侵害
―関連法案の柱となる「デジタル社会形成基本法案」は、国と自治体の情報システムの共同化・集約を進めるとしています。
自治体の業務に利用する情報システムを標準化、統一しょうとするものです。「地方公共団体情報システム標準化法案」もかかわってきます。法案が成立すれば国民健康保険など対象17業務(別項)のシステムは、国の定める標準化基準に適合するものにしなければならなくなります。
標準化17業務 児童手当、住民基本台帳、選挙人名簿管理、固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税、就学、国民健康保険、国民年金、障害者福祉、後期高齢者医療、介護保険、生活保護、健康管理、児童扶養手当、子ども・子育て支援
政府は、これまで各自治体が住民福祉の増進のために改修を進めてきた独自の業務システムではなく、国が立ち上げる全国規模のクラウド上に展開する標準化された情報システムを自治体に使わせようとしています。クラウドとはインターネットなどを利用して情報やサービスを共有する仕組みです。
すでに複数の自治体とクラウドシステムを利用しているある町では、「3人目の子どもの国保税免除を」との要望に対し、町長が町独自にシステムを仕様変更できないと答弁しました。全国でこのような事が懸念されます。
法案の7条3項には、標準化基準を定める際に一応、自治体の意見を反映させる必要な措置を講じるとあるので、自治体の意見を聞き入れる制度をどうするかが問われます。
自治体が標準化基準に適合しないシステムを採用する場合には、新設されるデジタル庁の大臣である内閣総理大臣が、地方自治法245条5項に基づいて「是正の要求」という形で標準化システムを押し付ける可能性も否定できません。
これまで内閣総理大臣が自治体の事務に直接関与する場合は、かなり限られていましたが、今回の関連法案で、国が地方自治に介入する手がかりを与えることになるのです。
結局、国の「標準化システム」を押し付けることにより、自治体が持つ自主立法権などの団体自治が失われ、それに応じて住民が物事を自ら決める住民自治のプロセスが欠けていきます。自治体の自治権への侵害です。
仕組みなくす
―関連法案には国と自治体の個人情報保護体制を統合していく内容も盛り込まれています。
狙いは企業が個人情報を利活用しやすくすることです。
行政がもつ個人情報を匿名化(個人を識別できないように加工した情報)し、民間企業に提供することをオープンデータ化と言います。現在、全国の自治体のうち匿名化条項を持っているのはわずか11自治体にとどまります。
企業が住民情報を利活用してスーパーシティやスマートシティをつくろうとしても、自治体は情報を提供できません。
自治体が持つ住民の個人情報を企業が自由に使うためには、常に情報連携(オンライン結合)できることが必要です。現行の自治体の個人情報保護条例は多くの場合「オンライン結合」を制限しているため、オンライン結合するためには各自治体の個人情報保護審議会などに諮問しなければなりません。これでは企業にとっては時間もかかるし面倒なため、この仕組みをなくすというのです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月18日付掲載
「デジタル社会形成基本法案」は、国と自治体の情報システムの共同化・集約を進めると。
効率が良くなるように見えますが、自治体が持つ自主立法権などの団体自治が失われ、それに応じて住民が物事を自ら決める住民自治のプロセスが欠けていきます。
つまり、自治体独自の医療費無料化とか学費無料化などの施策が制限されることになります。