コロナ禍と資本主義 見えざる鎖⑧ リスクと利益 極端な不平等
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたのは、バングラデシュだけではありません。アジア太平洋地域は世界のアパレル輸出総額の60%を占め、「世界の衣料品工場」と呼ばれています。国際労働機関(ILO)によると、2019年に、アジア太平洋地域で推定6500万人の衣料労働者が雇用されていました。世界中の衣料品部門の労働者75%に相当します。
コロナ禍は、アジア太平洋地域の縫製業を直撃しました。
ILOは、20年10月、「サプライチェーン(供給網)の波及効果」という報告書を発表。サプライチェーンの混乱が一つの場所で発生すると、混乱は互いに重なり合って増幅し、広範囲かつ複雑に広がり、サプライチェーン全体に波及すると指摘しています。
ロックダウン中にもかかわらず操業する工場から昼食休憩に出てきた縫製労働者=7月6日、ダッカ(ロイター)
事実上崩壊
20年前半、世界の衣料品貿易は、事実上崩壊しました。報告書によるとアジアの衣料品生産国から主要な購入国への輸出は、70%も減少。コロナ危機が発生した当初、ブランド企業や大手小売業者は相次いで発注をキャンセルしました。一方、縫製産業は、原材料の輸入が最大60%減少しました。
何千もの製造業者が一時的、あるいは恒久的に閉鎖されたため、労働者の一時帰休や解雇が広がりました。その後、一部の工場が操業を再開したものの雇用者数は減少。労働者は、少なくとも2週間から4週間分の仕事を失い、5人に3人の労働者しか工場に戻れませんでした。20年の第2四半期までに雇用されている人のうち、収入の減少と賃金の支払いの遅延が広まっていました。
女性はこの地域の縫製労働者の大部分を占めています。危機は、女性労働者により厳しい影響を与えました。仕事量だけでなく、無給の介護労働など、これまでに存在していた不平等をさらに悪化させています。
多くの工場が新型コロナウイルス感染のリスクを最小限に抑えるための措置を講じたものの、一貫した労働安全衛生対策が実施されませんでした。
インドネシア工業省によると、アパレルおよびフットウエア(履物)工場で働く労働者のうち、81万2000人が20年7月までに解雇されました。インドネシアの衣料品工場では、多くの工場で人員配置の一時的な削減、一時的なスタッフの解雇、賃金の削減がおこなわれました。これらの調査対象工場では、20年3月以降、週あたりの労働時間が平均15・6時間減りました。ミャンマーでは、約600の衣料品工場のうち、44工場が閉鎖され、約2万2200人の労働者が失業しました。カンボジアでは、15万人の労働者が職を失いました。
飢餓の恐れ
衣料品製造工場などで働く労働者の権利を監視している労働者人権協会(WRC)は20年9月に報告書「世界のアパレルブランドがパンデミックをどのように利用しているのか」を発表。「一部の国では、飢餓の恐れがあり、絶望的な労働者が自殺することを恐れている国もあります」と指摘しています。
サプライチェーンの構造的間題を、次のように強調します。
「過去数十年にわたって、世界の縫製産業は、サプライチェーンの底辺(製造業者とその労働者)に可能な限り多くの経済的リスクを押し付け、経済的利益のほぼすべてをトップに引き上げる(そして法的説明責任を可能な限り少なくする)生産システムを構築してきました。リスクと利益の極端な不平等配分は、発注条件としてサプライヤーに強いる契約関係に表れています」
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年7月23日付掲載
コロナ禍のもと、何千もの製造業者が一時的、あるいは恒久的に閉鎖されたため、労働者の一時帰休や解雇が広がりました。その後、一部の工場が操業を再開したものの雇用者数は減少。労働者は、少なくとも2週間から4週間分の仕事を失い、5人に3人の労働者しか工場に戻れませんでした。
「過去数十年にわたって、世界の縫製産業は、サプライチェーンの底辺(製造業者とその労働者)に可能な限り多くの経済的リスクを押し付け、経済的利益のほぼすべてをトップに引き上げる(そして法的説明責任を可能な限り少なくする)生産システムを構築してきました。リスクと利益の極端な不平等配分は、発注条件としてサプライヤーに強いる契約関係に表れています」
生産が必要な時は徹底的に安い労働力でこき使い、必要がなくなったら一番先に切り捨てる。
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたのは、バングラデシュだけではありません。アジア太平洋地域は世界のアパレル輸出総額の60%を占め、「世界の衣料品工場」と呼ばれています。国際労働機関(ILO)によると、2019年に、アジア太平洋地域で推定6500万人の衣料労働者が雇用されていました。世界中の衣料品部門の労働者75%に相当します。
コロナ禍は、アジア太平洋地域の縫製業を直撃しました。
ILOは、20年10月、「サプライチェーン(供給網)の波及効果」という報告書を発表。サプライチェーンの混乱が一つの場所で発生すると、混乱は互いに重なり合って増幅し、広範囲かつ複雑に広がり、サプライチェーン全体に波及すると指摘しています。
ロックダウン中にもかかわらず操業する工場から昼食休憩に出てきた縫製労働者=7月6日、ダッカ(ロイター)
事実上崩壊
20年前半、世界の衣料品貿易は、事実上崩壊しました。報告書によるとアジアの衣料品生産国から主要な購入国への輸出は、70%も減少。コロナ危機が発生した当初、ブランド企業や大手小売業者は相次いで発注をキャンセルしました。一方、縫製産業は、原材料の輸入が最大60%減少しました。
何千もの製造業者が一時的、あるいは恒久的に閉鎖されたため、労働者の一時帰休や解雇が広がりました。その後、一部の工場が操業を再開したものの雇用者数は減少。労働者は、少なくとも2週間から4週間分の仕事を失い、5人に3人の労働者しか工場に戻れませんでした。20年の第2四半期までに雇用されている人のうち、収入の減少と賃金の支払いの遅延が広まっていました。
女性はこの地域の縫製労働者の大部分を占めています。危機は、女性労働者により厳しい影響を与えました。仕事量だけでなく、無給の介護労働など、これまでに存在していた不平等をさらに悪化させています。
多くの工場が新型コロナウイルス感染のリスクを最小限に抑えるための措置を講じたものの、一貫した労働安全衛生対策が実施されませんでした。
インドネシア工業省によると、アパレルおよびフットウエア(履物)工場で働く労働者のうち、81万2000人が20年7月までに解雇されました。インドネシアの衣料品工場では、多くの工場で人員配置の一時的な削減、一時的なスタッフの解雇、賃金の削減がおこなわれました。これらの調査対象工場では、20年3月以降、週あたりの労働時間が平均15・6時間減りました。ミャンマーでは、約600の衣料品工場のうち、44工場が閉鎖され、約2万2200人の労働者が失業しました。カンボジアでは、15万人の労働者が職を失いました。
飢餓の恐れ
衣料品製造工場などで働く労働者の権利を監視している労働者人権協会(WRC)は20年9月に報告書「世界のアパレルブランドがパンデミックをどのように利用しているのか」を発表。「一部の国では、飢餓の恐れがあり、絶望的な労働者が自殺することを恐れている国もあります」と指摘しています。
サプライチェーンの構造的間題を、次のように強調します。
「過去数十年にわたって、世界の縫製産業は、サプライチェーンの底辺(製造業者とその労働者)に可能な限り多くの経済的リスクを押し付け、経済的利益のほぼすべてをトップに引き上げる(そして法的説明責任を可能な限り少なくする)生産システムを構築してきました。リスクと利益の極端な不平等配分は、発注条件としてサプライヤーに強いる契約関係に表れています」
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年7月23日付掲載
コロナ禍のもと、何千もの製造業者が一時的、あるいは恒久的に閉鎖されたため、労働者の一時帰休や解雇が広がりました。その後、一部の工場が操業を再開したものの雇用者数は減少。労働者は、少なくとも2週間から4週間分の仕事を失い、5人に3人の労働者しか工場に戻れませんでした。
「過去数十年にわたって、世界の縫製産業は、サプライチェーンの底辺(製造業者とその労働者)に可能な限り多くの経済的リスクを押し付け、経済的利益のほぼすべてをトップに引き上げる(そして法的説明責任を可能な限り少なくする)生産システムを構築してきました。リスクと利益の極端な不平等配分は、発注条件としてサプライヤーに強いる契約関係に表れています」
生産が必要な時は徹底的に安い労働力でこき使い、必要がなくなったら一番先に切り捨てる。