AIと科学的社会主義⑤ 価値法則にも変化が
経済研究者 友寄英隆さん
人工知能(AI)は、経済学や政治学などの社会科学、歴史学、哲学などの諸科学とも深くかかわっています。
18世紀から19世紀の紡績機械の発明に始まる機械工業の発展は、資本の蓄積・再生産のあり方を根底から変えて、マルクスが『資本論』で解明したように、資本主義の構造を変革しました。
AIの開発・利用は、まだ始まったばかりです。しかし、長期的な視点で見ると、AIは資本主義の構造や制度に、さまざまな影響を及ぼす可能性があります。それは雇用・労働法制、企業経営と利潤獲得、市場競争と独占規制、研究開発や知的財産権、税制や通貨・金融制度などなど、広範囲に及びます。
さらに、資本主義社会の経済的構造だけでなく、選挙や政治制度、メディアや情報社会、学術・教育、文化・芸術、スポーツのあり方など上部構造にかかわる諸問題にも、大きな変化をもたらす可能性があります。
AIに関する決議を採択した国連総会議場=2024年3月21日(UN Photo/Manuel Elias)
労働時間の短縮
働く者の立場からいえば、AIは労働時間の短縮による自由時間を増やす技術的な条件をもたらします。しかし、資本主義のもとでは自動的に労働時間の短縮が進むわけではありません。労働者・国民の粘り強い労働時間短縮闘争が必要です。
AIの発展によって、人間の自由をめぐる新たな問題が生まれる可能性もあります。生成AIの悪用による偽情報の拡散、誹謗(ひぼう)中傷による人権侵害、AIロボットの利用が個人の自由や権利を制限・侵害する可能性があるため、AIロボットの行動の適法性についての検討が必要です。
資本主義の限界
もしAIの利用が社会全体に広がるなら、資本主義を支える価値法則そのものにも新たな変化が生まれるでしょう。マルクスは次のように述べています。
「資本は、それ自身が、過程を進行しつつある矛盾である。すなわちそれは、〔一方では〕労働時間を最小限に縮減しようと努めながら、他方では労働時間を富の唯一の尺度かつ源泉として措定する、という矛盾である」(『資本論草稿集』②)マルクスは、長期的な人類史的な視点に立つと、商品生産の価値規定は根本的な自己矛盾をはらんでおり、それは資本主義の限界を示していると論じているのです。
◇
最後に、2点だけ指摘しておきます。
①最新のAIは急速な発展をしていますが、それでもなお、発展途上の未完成の技術です。生成AIに続いて汎用人工知能(AGI)の研究・開発が進められています。AIの基本技術として量子コンピューターを利用できるようになれば、その計算能力は飛躍的に増大するでしょう。コンピューターの基本的設計思想を転換させるなら、演算のためのエネルギー消費量を大幅に減らすことが可能になるともいわれています。しかし、それらはあくまでも理論的な可能性にすぎません。
②発展途上の技術であるだけに、その開発・利用に当たっては国際的な規模での民主的管理とルールが必要です。国連は2024年にAIに関する総会決議を行いました。また世界各国から選ばれた39名の専門家からなる「国連ハイレベルAI諮問機関」が組織され、2023年12月に「人類のためのAI統治」を発表しました。
ホーキング博士の言葉をもう一度引用して、締めくくります。
「私たちの未来は、増大するテクノロジーの力と、それを利用する知恵との競争だ。知恵が確実に勝つようにしようではないか」
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月21日付掲載
働く者の立場からいえば、AIは労働時間の短縮による自由時間を増やす技術的な条件をもたらします。しかし、資本主義のもとでは自動的に労働時間の短縮が進むわけではありません。労働者・国民の粘り強い労働時間短縮闘争が必要。
AIの基本技術として量子コンピューターを利用できるようになれば、その計算能力は飛躍的に増大するでしょう。コンピューターの基本的設計思想を転換させるなら、演算のためのエネルギー消費量を大幅に減らすことが可能になるとも。
国連は2024年にAIに関する総会決議を行いました。また世界各国から選ばれた39名の専門家からなる「国連ハイレベルAI諮問機関」が組織され、2023年12月に「人類のためのAI統治」を発表。
経済研究者 友寄英隆さん
人工知能(AI)は、経済学や政治学などの社会科学、歴史学、哲学などの諸科学とも深くかかわっています。
18世紀から19世紀の紡績機械の発明に始まる機械工業の発展は、資本の蓄積・再生産のあり方を根底から変えて、マルクスが『資本論』で解明したように、資本主義の構造を変革しました。
AIの開発・利用は、まだ始まったばかりです。しかし、長期的な視点で見ると、AIは資本主義の構造や制度に、さまざまな影響を及ぼす可能性があります。それは雇用・労働法制、企業経営と利潤獲得、市場競争と独占規制、研究開発や知的財産権、税制や通貨・金融制度などなど、広範囲に及びます。
さらに、資本主義社会の経済的構造だけでなく、選挙や政治制度、メディアや情報社会、学術・教育、文化・芸術、スポーツのあり方など上部構造にかかわる諸問題にも、大きな変化をもたらす可能性があります。
AIに関する決議を採択した国連総会議場=2024年3月21日(UN Photo/Manuel Elias)
労働時間の短縮
働く者の立場からいえば、AIは労働時間の短縮による自由時間を増やす技術的な条件をもたらします。しかし、資本主義のもとでは自動的に労働時間の短縮が進むわけではありません。労働者・国民の粘り強い労働時間短縮闘争が必要です。
AIの発展によって、人間の自由をめぐる新たな問題が生まれる可能性もあります。生成AIの悪用による偽情報の拡散、誹謗(ひぼう)中傷による人権侵害、AIロボットの利用が個人の自由や権利を制限・侵害する可能性があるため、AIロボットの行動の適法性についての検討が必要です。
資本主義の限界
もしAIの利用が社会全体に広がるなら、資本主義を支える価値法則そのものにも新たな変化が生まれるでしょう。マルクスは次のように述べています。
「資本は、それ自身が、過程を進行しつつある矛盾である。すなわちそれは、〔一方では〕労働時間を最小限に縮減しようと努めながら、他方では労働時間を富の唯一の尺度かつ源泉として措定する、という矛盾である」(『資本論草稿集』②)マルクスは、長期的な人類史的な視点に立つと、商品生産の価値規定は根本的な自己矛盾をはらんでおり、それは資本主義の限界を示していると論じているのです。
◇
最後に、2点だけ指摘しておきます。
①最新のAIは急速な発展をしていますが、それでもなお、発展途上の未完成の技術です。生成AIに続いて汎用人工知能(AGI)の研究・開発が進められています。AIの基本技術として量子コンピューターを利用できるようになれば、その計算能力は飛躍的に増大するでしょう。コンピューターの基本的設計思想を転換させるなら、演算のためのエネルギー消費量を大幅に減らすことが可能になるともいわれています。しかし、それらはあくまでも理論的な可能性にすぎません。
②発展途上の技術であるだけに、その開発・利用に当たっては国際的な規模での民主的管理とルールが必要です。国連は2024年にAIに関する総会決議を行いました。また世界各国から選ばれた39名の専門家からなる「国連ハイレベルAI諮問機関」が組織され、2023年12月に「人類のためのAI統治」を発表しました。
ホーキング博士の言葉をもう一度引用して、締めくくります。
「私たちの未来は、増大するテクノロジーの力と、それを利用する知恵との競争だ。知恵が確実に勝つようにしようではないか」
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月21日付掲載
働く者の立場からいえば、AIは労働時間の短縮による自由時間を増やす技術的な条件をもたらします。しかし、資本主義のもとでは自動的に労働時間の短縮が進むわけではありません。労働者・国民の粘り強い労働時間短縮闘争が必要。
AIの基本技術として量子コンピューターを利用できるようになれば、その計算能力は飛躍的に増大するでしょう。コンピューターの基本的設計思想を転換させるなら、演算のためのエネルギー消費量を大幅に減らすことが可能になるとも。
国連は2024年にAIに関する総会決議を行いました。また世界各国から選ばれた39名の専門家からなる「国連ハイレベルAI諮問機関」が組織され、2023年12月に「人類のためのAI統治」を発表。