米中対立激化と半導体産業① 国内生産強める米国
桜美林大学教授 藤田実さんに聞く
4月に行われた菅義偉首相とバイデン米大統領の首脳会談で、米国は日本に対し、半導体などのサプライチェーン(部品供給網)の見直しを迫りました。半導体産業に詳しい桜美林大学の藤田実教授に文章を寄せてもらいました。
4月17日に行われた日米首脳会談の共同声明は「日米両国はまた、両国の安全及び繁栄に不可欠な重要技術を育成・保護しつつ、半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する」と明記。付属文書「日米競争力・強靱(きょうじん)性(コア)パートナーシップ」では、「半導体を含む機微なサプライチェーン及び重要技術の育成・保護に関し協力する」と具体化されています。付属文書では、量子コンピューターや人工知能(AI)、5G(第5世代通信規格)及びそれ以降の技術の研究開発など先端科学技術分野での連携、協力、投資がうたわれています。
日米首脳会談前から、アメリカはコロナ禍で鮮明になった世界的な半導体不足に危機感を表明し、国内生産を強化する必要性を強調しています。2月24日にバイデン大統領は、「半導体の国内生産を加速するために370億ドルの財源を確保する」という大統領令に署名しました。これは、韓国や中国、日本などを中心とした生産からアメリカ国内での生産を拡大したいとの思惑からきています。4月12日、バイデン大統領は自動車や半導体、IT(情報技術)など19社の幹部を集めたオンライン会議を開き、半導体不足への対策を協議しました。
米ワシントンのホワイトハウスで行われた日米首脳会談=4月17日(首相官邸ホームページから)
業界圧力
半導体の国内生産の促進をめざすアメリカ政府の政策展開には、半導体業界からの強い働きかけもあります。2月11日にアメリカ半導体工業会の代表やインテル、マイクロンなどの半導体企業がバイデン大統領に書簡を送り、半導体製造と研究への多額の資金投入を要請しています。その書簡で、半導体は米国経済、米国の技術リーダーシップ、および国家安全保障にとって重要であることを指摘しています。そして国内の半導体製造と研究への投資により、米国の経済成長、雇用、インフラストラクチャー(社会基盤)を促進することができるとともに、国家安全保障とサプライチェーンの回復力を強化することができるとしています。
しかし世界の半導体製造能力における米国のシェアは1990年の37%から今日では12%に減少しており、AI、5G/6G(第6世代通信規格)、量子コンピューティングなど、将来のテクノロジーの優越性をめぐる競争において、テクノロジーのリーダーシップが危険にさらされているとしています。
このように半導体メーカーなどの書簡は、アメリカの半導体製造能力が海外に流出していることで、アメリカの安全保障と技術的リーダーシップが危険にさらされているとして、政府による積極的支援を訴えています。
アメリカ国内での半導体産業の再構築を求める動きは、バイデン政権で始まったわけではありません。トランプ政権時代の20年6月、アメリカの超党派議員はアメリカ半導体産業の強化法を提案しました。それは「米半導体製造支援法(CHIPS)」と「米半導体ファウンドリ強化法(AFA)」といわれます。これらの二つの法案は半導体分野への補助金支給を求めるものですが、補助金支給は安全保障と対中国包囲を意識しています。すなわちCHIPSは国防総省など政府機関のプロジェクトを対象にし、AFAは国防総省と民間企業を対象にしていることから、安全保障を重視していることがわかります。さらにAFAは中国政府に関係する企業への資金提供を一切禁止するものとなっており、半導体産業の国内生産強化が対中包囲網の一環であることを示しています。
日米連携
こうした議会や半導体業界の訴えを受けて、バイデン大統領は半導体業界への巨額の財政支援を要請するとともに、日米で連携、協力して、半導体のサプライチェーンから中国を切り離そうとしているのです。昨年からのアメリカの動きをみると、半導体製造を国内に回帰させることで、研究・開発から製造まで一貫した能力を国内で保有し、AIや量子コンピューター、6Gなど将来技術でも競争力を確保することを意図しているといえます。そして日本の技術を日米同盟の枠内に閉じ込め、アメリカの競争力強化のために利用しようとしているのです。
(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年5月20日付掲載
コンピューターや電子機器のハードを支える半導体のシェア。意外とアメリカの競争力が落ちているのですね。
巻き返しを図るために日本を巻き込んで半導体業界への支援策をというこです。
桜美林大学教授 藤田実さんに聞く
4月に行われた菅義偉首相とバイデン米大統領の首脳会談で、米国は日本に対し、半導体などのサプライチェーン(部品供給網)の見直しを迫りました。半導体産業に詳しい桜美林大学の藤田実教授に文章を寄せてもらいました。
4月17日に行われた日米首脳会談の共同声明は「日米両国はまた、両国の安全及び繁栄に不可欠な重要技術を育成・保護しつつ、半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する」と明記。付属文書「日米競争力・強靱(きょうじん)性(コア)パートナーシップ」では、「半導体を含む機微なサプライチェーン及び重要技術の育成・保護に関し協力する」と具体化されています。付属文書では、量子コンピューターや人工知能(AI)、5G(第5世代通信規格)及びそれ以降の技術の研究開発など先端科学技術分野での連携、協力、投資がうたわれています。
日米首脳会談前から、アメリカはコロナ禍で鮮明になった世界的な半導体不足に危機感を表明し、国内生産を強化する必要性を強調しています。2月24日にバイデン大統領は、「半導体の国内生産を加速するために370億ドルの財源を確保する」という大統領令に署名しました。これは、韓国や中国、日本などを中心とした生産からアメリカ国内での生産を拡大したいとの思惑からきています。4月12日、バイデン大統領は自動車や半導体、IT(情報技術)など19社の幹部を集めたオンライン会議を開き、半導体不足への対策を協議しました。
米ワシントンのホワイトハウスで行われた日米首脳会談=4月17日(首相官邸ホームページから)
業界圧力
半導体の国内生産の促進をめざすアメリカ政府の政策展開には、半導体業界からの強い働きかけもあります。2月11日にアメリカ半導体工業会の代表やインテル、マイクロンなどの半導体企業がバイデン大統領に書簡を送り、半導体製造と研究への多額の資金投入を要請しています。その書簡で、半導体は米国経済、米国の技術リーダーシップ、および国家安全保障にとって重要であることを指摘しています。そして国内の半導体製造と研究への投資により、米国の経済成長、雇用、インフラストラクチャー(社会基盤)を促進することができるとともに、国家安全保障とサプライチェーンの回復力を強化することができるとしています。
しかし世界の半導体製造能力における米国のシェアは1990年の37%から今日では12%に減少しており、AI、5G/6G(第6世代通信規格)、量子コンピューティングなど、将来のテクノロジーの優越性をめぐる競争において、テクノロジーのリーダーシップが危険にさらされているとしています。
このように半導体メーカーなどの書簡は、アメリカの半導体製造能力が海外に流出していることで、アメリカの安全保障と技術的リーダーシップが危険にさらされているとして、政府による積極的支援を訴えています。
アメリカ国内での半導体産業の再構築を求める動きは、バイデン政権で始まったわけではありません。トランプ政権時代の20年6月、アメリカの超党派議員はアメリカ半導体産業の強化法を提案しました。それは「米半導体製造支援法(CHIPS)」と「米半導体ファウンドリ強化法(AFA)」といわれます。これらの二つの法案は半導体分野への補助金支給を求めるものですが、補助金支給は安全保障と対中国包囲を意識しています。すなわちCHIPSは国防総省など政府機関のプロジェクトを対象にし、AFAは国防総省と民間企業を対象にしていることから、安全保障を重視していることがわかります。さらにAFAは中国政府に関係する企業への資金提供を一切禁止するものとなっており、半導体産業の国内生産強化が対中包囲網の一環であることを示しています。
日米連携
こうした議会や半導体業界の訴えを受けて、バイデン大統領は半導体業界への巨額の財政支援を要請するとともに、日米で連携、協力して、半導体のサプライチェーンから中国を切り離そうとしているのです。昨年からのアメリカの動きをみると、半導体製造を国内に回帰させることで、研究・開発から製造まで一貫した能力を国内で保有し、AIや量子コンピューター、6Gなど将来技術でも競争力を確保することを意図しているといえます。そして日本の技術を日米同盟の枠内に閉じ込め、アメリカの競争力強化のために利用しようとしているのです。
(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年5月20日付掲載
コンピューターや電子機器のハードを支える半導体のシェア。意外とアメリカの競争力が落ちているのですね。
巻き返しを図るために日本を巻き込んで半導体業界への支援策をというこです。