峠から見た安房山
安房山(2.222m)は、乗鞍山系の北端に位置する山で、登山道や道標もないため、一般的な登山の対象とならない藪山である。
山岳雑誌に山スキーの記録が掲載されることもあって、冬期に入山する人はいるが、無雪期に登る人はあまりいない。
梅雨明けを狙って、平湯から安房峠まで自転車で走り、そこから山頂を往復する計画を立てていた。
約8キロのヒルクライムの後で、以前に失敗している山の往復は、体力的に無理と峠までは車を利用することにした。
山頂へは、閉鎖中の峠の茶屋の裏手から登っていく。
安房トンネルの排気塔を過ぎると、いきなり深い草むらと熊笹の中の急登が始まる。
トレッキングポールを使える状況ではないの、早々に片付けて両手をフリーにした。
崖や急斜面には、半ば朽ち果てた縄梯子や虎ロープが付けてあったが、これを頼りに登ることは出来ない。
これは山頂近くの無線中継アンテナを建設した時の名残りで、保守点検時にも利用されているようだ。
登るにしたがって藪が深くなり、場所によっては背丈を越えるほどで、足元の倒木や根上がり、岩石などの障害物はまったく見えなかった。
両手で藪をかき分け、踏み跡か獣道らしきものを見つけながら登っていったが、朝露と汗で全身濡れ鼠状態になった。
尾根を外さないように辿って行き、広い場所ではルートをそれる事も度々あったが、危ない方向へ踏み出すことはなかった。
こういう状況のルートファインディングは、コンパスや地形図より動物的な勘に頼った方がよさそうだ。
飛騨北部の山は、まだ梅雨が明け切らず、虫が大発生していた。
ブヨや小バエ、目セセリなどが群がって顔の周りを飛び交い、笹の束で払っても払っても襲ってくる。
休憩するとブヨ柱?になって集まってくるので、給水も歩きながらするほどだった。
この山は熊の生息地なので、リュックと腰に鈴をぶら下げ、周りが見えない場所では、大声で山の歌をがなったりした。
最後まで急な登りが続いたが、無事に山頂の標識と三角点の標石も確認できた。
無名の藪山が好きで、近所の名も無い山を登っているが、今回の安房山は藪の深さでは第一級だった。
それに加えて、想定外のブヨの攻撃で、顔はぼこぼこ、耳たぶも刺されて福耳になってしまった。
下りは要所に目印をつけておいたので、迷うことなく峠に着くことが出来た。
「峠の茶屋」の屋根と排気塔がが見えた時はマジにほっとしたが、こんな気分になったのも久しぶりのことだった。
ぼつぼつ藪山を卒業して、登山道の整備された山を、のんびり登る時期が来たことを痛感する登山となった。
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